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雲をつかめ  作者: 高橋峻
3/7

 昼休み、ぼくは中庭に来ていた。弁当の中身はいつも質素だ。ご飯に、冷凍食品のチキンと温野菜。母は朝が早いし、あまり家庭的なタイプではないから、毎日同じメニューなのだった。それらを口の中に入れているうちに、何だか作業じみた気分になってくる。作業になってしまうと途端に楽しくなくなるし、美味しくない。毎日同じメニューなのだから尚更だ。弁当を投げ捨てたい気分にかられる。朝からのじめじめは勢いを増していて、更にご飯から美味しさを奪って行く。ご飯を残して帰った時の母の姿が目に浮かぶ。せめて過ごしやすいところであればなあ、と思った。

 とは言え教室にはいられない。縄張りがあるからだ。程度に違いはあっても、一般的に動物は群れを作る生き物が多いと聞く。社会人がどうとかは分からないけど、少なくとも学校では人もその例に漏れず、複数の群れができていた。群れは一年生の時から積み上げられて来たもので、新参者が入れるような雰囲気ではなかった。教室は彼らの縄張りだ。しかし群れは、ちょうど職員室前の廊下から見える位置にある中庭を忌避していた。ぼくのようなはぐれ者たちは、群れの縄張りから逃げるように、ここに隠れ住んでいる。それは、ぼくたち学生のささやかな生存競争だった。

 はぐれ者たちは群れを作らない。はぐれ者同士で意識し合わないようにしている。群れに捕食されるのを防ぐためだ。とにかく群れは目立つし、場所を奪う。同じ群れでも、はぐれ者たちの寄せ集めだから、教室を縄張りにするような強い群れは歓迎しない。群れと群れは、捕食する側とされる側という関係を持つ。縄張り争いだ。縄張り争いに負けると、群れは縄張りを変えなくてはいけなくなる。でも、はぐれ者のままでいることで、争いを避けることができる。ぼくたちは無敵なのだった。

 けれど、この日の中庭は少し違った。昨日まではぐれ者であった人が、同じくはぐれ者であった人と群れを作っていた。一年生だ。彼らはまだ馴染みがないかもしれないけど、はぐれ者同士の群れは弱いから、すぐに捕食されてしまうだろう。そのくらいの差が、意識の壁がある。弱い群れや、ぼくたちのようなはぐれ者では乗り越えられない壁だ。乗り越えるには、強い群れに入らなければいけない。強い群れに入る。それは難しいように感じられた。群れに入るためには、いくつかの審査をクリアする必要がある。そうして初めて群れのリーダーの配下につくことが許される。ぼくたちはぐれ者は、その審査から逃げて来た人たちだ。きっと明日には意識の壁に押しつぶされて、彼らの群れは散り散りになってしまうだろう。

 そんなことも知らず、彼らは楽しそうにご飯を食べていた。ぼくは半分くらい残った米をゴミ箱に捨てて、空になった弁当箱を鞄にしまった。群れに目を付けられる前に新しい避難所を探すことにしたのだった。

 ぽつん、と肌に水滴が当たった。どうやら雨が降りだしたみたいだ。真っ黒な雲が淡い白色の雲を押し出していた。ふと永沢先生の話を思い出して、ぼくは残った昼休みの時間、彼の話の続きを聞きに行こうと思った。

表現力の引き出しが少ない。


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