二十二話
辛い中にも幸せ
あのめぐの言葉が離れなかった。
辛いのは辛いよ…。
『雛っ!!』
朝部屋に入ってきたのは兄の雅也だった。
「雅也っ?何でいるの?」
『帰ってきたー。』
兄はスポーツ大学4年目で今年卒業だった。
今はほとんど学校に行かなくていいらしい。
雛の状態は母から聞いてるらしいけど、兄から雛に聞いてくる事はなかった。
「おかえり。」
起き上がり朝から兄と話しをしていた。
雛と雅也は昔から仲良い兄弟で、喧嘩なんてほとんどしなかった。雛も兄が兄弟として好きだったし、スポーツ一筋の兄を尊敬していた。
『相変わらず変な頭!』
雛の金髪の頭を馬鹿にする。
「うるさいなぁ!今日はどっか行くの?」
『今日は行かない。明日から毎日飲みだよ!』
「元気だねえ。」
兄は父と母に似て酒には強かった。
この日は近くのビデオ屋に連れて行ってくれたり、外に連れ出してくれた。
夜。
母も仕事から帰ってきて3人で話していたが母はすぐに寝てしまう。
二人は借りてきたDVDを朝まで見ていた。
「明日は誰と飲み?」
『小学校の時の奴らと。』
「ふぅーん。」
『そういえばさやかって覚えてる?』
さやかとは兄と小学校が同じで同い年の人だった。
同じ団地に暮らしている。
「知ってるよー。」
『父さんと母さん離婚したらしいよ。だから今ここに住んでないんだって。』
――離婚…?――
少しその言葉にひっかかる。
兄は母と父の離婚を知らない。
「そうなんだ。」
おばあちゃんにはいつか兄にも母と父の事を雛から言っておいてと言われていた。
今なら言えるかも。
今しかない。
「あのさっ…。」
勢いよく話しかける。
『何?』
「あの…。」
中々言い出せない。
『何さっ!』
「ママとパパの事知ってる?」
『何が?』
「離婚してるって…。」
一瞬沈黙になる。
『そーだったんだ。』
「気づいてた?」
『小さい時二人が話してて、離婚って言葉聞いちゃった事あるんだよね。すぐ逃げたけど。』
「雛はおばあちゃんから聞いたんだ。いつか雅也にも言っておいてって言われてたし。」
『まぁいいじゃん!離婚してても今二人仲良いんだしさ。』
「そーだね。いつか二人一緒に暮らさないかな?」
『暮らしてほしいね。俺がいつか父さんに言ってみるよ。』
「お願いね。」
雛は母と父について全部話し、兄と一時間程ずっと話し続けた。
「さっ!何かまたDVDでも見るか!」
『父さんが帰ってくれば雛も何か変わるかもしれないしね。』
――??――
きっと雛が閉じこもってるのが治るって事だろう。
「無理だよ…。」
父さんが帰ってきたからって治るものでもない。
それに余計焦るかもしれない。
『聞かない様にしてたけど、なんかあったの?』
「えっ…?」
『学校でイジメられたとか?それとも乗り物で痴漢されたとか?』
「違うよ。」
兄がいきなり自分の事を聞かれてビックリした。
「雅也言っても理解できないと思うし。」
精神病なんて理解してくれないだろう。
それにこんな妹やだと思われたくなかった。
『まぁ言ってみぃ!』
笑いながらそう言った。
「雛、パニック障害らしいんだよね。」
『…。』
「それに不安障害ってのもある。それ以外にもまだあるかも。」
恐る恐る兄の顔を見る。
『なーんだ!良かったわ!』
兄はニッと笑う。
「へっ?」
『良くはないけどさ。なんかレイプされたとかそっち系だと思ったんだよね。』
「違うよー!」
『まぁどっちにしろ雛は辛いと思うけど、ゆっくり頑張ってけばいいんだわ。』
兄は昔から優しかったが、ここまで優しい言葉が出るとは思ってなかった。
『今は俺一緒に暮らしてないけど、何かあったら相談にものるし。電話してきな。』
「雅也優しいな。」
ぼそっとつぶやく。
『なんだかんだ俺等兄弟なんだし!』
「もぉ泣かすなよー!」
兄に泣き顔見せるなんて情けないけど、こらえきれなかった。
上を向いて笑いながら泣いた。
「ありがと。」
こんなにこんなに兄弟とゆう存在に感謝した事はなかった。心強い存在だったし、嬉しくてたまらなかった。
『俺以外に聞き上手だからさぁ!』
本当に話しやすかったし聞上手だと思った。
でも
「調子のんなぁ!」
って照れ隠しで言ってみたり。
幸せだった。
家族の温かさこんなに感じた事はなかった。
私がこうなってからママは私の為にどれだけ努力してくれただろう。
感情が不安定だったから気づかなかったけど今思えばたくさん支えられた。
それに今こうして雅也にも話しを聞いてもらって気持ちが楽になってる。
あの言葉がきっと支えなる。私がこうならなきゃきっとこの温かさにも気づかなかった。
辛い中にも幸せってこうゆう事なのかもしれない。
辛い時だからこそ気づける事がある。
本当にありがとう。
この時雛は家族とゆう存在に感謝した。
それと友達、いやめぐとゆう存在にも。




