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St. Valentin's Day  作者: 双樹
4/4

――五日目――

 地下鉄のホームに降り立つと、普段では考えられないくらいの早足になった。

 右手には小さな紙袋が一つ。

 仕事が休みだった昨日、一日を潰して迷って買ったもの。

 中には、丁寧にラッピングされた箱。漆黒の包装紙にシルバーのリボンが、重厚感を出すというより品を貶めている。

 これを押し付けて、言ってやるつもりだった。


 もう、いなくなって。


 漠然と、だが知っていた。願いさえ叶えば彼はここからいなくなる。

 あの子がいるところまであと少し。

 もう見なくて済む。聞かなくても済む。

 そう、いつもこの辺りに。

 ……果して、そこに彼はいなかった。

 すっと指先が冷える。

 掌を握り締めると、長くはないが研いで鋭くなっている爪が喰い込んだ。きっと跡がつく。

 慌てて見回すが、気配がない。

 もしかしたら場所を変えたのかも。

 考え、大通りを歩きまわる。来た道を戻り、反対側にも行ってみる。だが。

 ――どうして?

 疑問符はしかし、己に打ち消された。思いつく可能性ならある。

 きっと、あのあと誰かからチョコレートを貰うことが出来たのだ。

 理屈はそう囁いている。

 いいじゃない。いなくなったんだから。いいじゃない。

 私はただ、そのつもりでこれを買ったのだから。

 喜ぶべきことなのよ。これで、気持ちを掻き回されることはなくなったのだから。

 いつの間にか、最初の目的地に戻ってきてしまった。

 これで、せいせいするのだ。

「……どうして、待っていてくれなかったの」

 それは口から勝手に出た言葉。こんなこと私は思っていない。

「どうして」

 呟きは、涙に吸い取られた。


 共通点はロングスカートだったということに気付いたのは、会社から家へ帰り、行き場のなくなった包みをぽすんとベッドに投げた時だった。

 泣いたのなんて、何年振りだろう。あの人に振られた時ですら平然としていたのに。

 私も一緒になってベッドに飛び込む。数秒放心したあと、手探りだけでそれの包装紙を解き、ひとつ、口に入れる。

 甘くて少し、苦い。

 すべて溶けてしまうと、わずかに気分が軽くなる。中にほんの少し入っているアルコールの所為ではないだろうが。

 あるいは、本当に久しぶりに泣いたから、かもしれない。


 私は目を瞑ったまま、もう一つ、チョコのかけらを食べた。

はじめまして。双樹と申します。

Anniversary第一話でした。お楽しみいただけましたでしょうか。

このシリーズは学園もののつもりなのですが、お話の構成上、最初のお話は年齢高めになっております。

徐々に主人公年齢下がっていって学園ものっぽくなります。


それでは、今後ともよろしくお願いいたします。



双樹

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