――三日目――
「まだいるのね」
半ばうんざりしながらひとりごちる。
何故だろう、酷く苛つく。
平日に入り、歩行者天国はなくなり、人混みも幾分緩和されるとその存在は際立った。
距離は、約二メートル。すぐ近くにいるのに手が届かない。そんな空間。
何を、見ているの?
彼は、ある一点を凝視している。その先には大したものなどありはしないのに。
知らぬ間に爪を噛みつつ、私は彼の目前へ移動した。
気付いた様子はない。
私は膝を曲げしゃがみ込み、少年と目線の高さを合わせる。
手を振ってみた。
「ねえ」
ついでに声まで掛けてみる。
だがまるで彼は私のことなど全く目に映っていないのか、虚空を睨み据えたままで。
「……」
馬鹿馬鹿しい。付き合うのではなかった。
頭を振り、立ち上がって踵を返し、その場をあとにする。
数歩も行かぬうちに背後に異変を覚えた。
「きゃ」
女性の、小さな悲鳴。
勢いよく振り返る。
驚きの隠せない彼女の、スカートの端をつかんでいる。なんて可愛らしい声を上げるのだろうとぼんやり考える。
「チョコくれ」
……!
予想の出来ていた展開。
なのに。理由もなく激昂した。
居たたまれなくなり、走る。
泣きそうになるのは、何故。