第7話 世界最強の騎士
「結局来てくれたんですね」
「……あのまま国を出てお前が死んだら後味が悪いだろうが」
結局俺はイリアと一緒に戦場に戻ることを選んだ。親戚だし三年も養ってもらった。そんな人をほぼ死ぬとわかっている戦場に送り出してしまうほど俺は腐ってなかったみたいだ。
「なんやかんや言ってあなたは良い奴ですよね。ヒキニートでしたけど」
「最後の絶対いらないよね。わざわざヒキニートとか言わなくてもよかったよね」
どうして末尾にいらないものを付け加えてしまったのか。最後の奴が無ければ普通に褒めてもらえたんだと思えたのに。全く酷い奴だ。
「まあ、ここから馬車で数日はかかります。あなたは一応私の副官という事で話を通してあるので安心してください。目的地までは私と二人でこの馬車に乗っておけばいいです。前線についたらやることを伝えるので」
「へいへい。じゃあ、俺はゆっくり眠らせてもらおうかね」
久しぶりにこんなに豪華な馬車に乗ったがやっぱり乗り心地は良い。この前ぶち込まれた簡素な馬車とは大違いだった。椅子はふかふかだし室内は明るい。これならぐっすり寝ることが出来そうだ。
「あなたは本当に寝るのが好きですね。せっかくだ膝枕でもしてあげましょうか?」
「なんだよいきなり。風邪でも引いたのか?」
イリア普段はそんなことは決して言わない。高確率で死ぬ戦場に向かうから少しおかしくなっているのだろうか。イリアだって年頃の女性だ。死地に行くのは怖いだろうし、人を殺すのだって嫌なはずだ。
「たまにはいいじゃないですか。ほら、こっちに来てください」
イリアは膝をポンポンと叩いて膝に寝ころぶように促す。特段断る理由もないから俺はお言葉に甘えてイリアの膝に頭をのせる。柔らかい感触が後頭部に当たって心地いい。本当にこのまま眠ることだってできそうだが、目を開ければイリアの整った顔が近くにあって眠るどころではなくなってしまった。
「本当に寝れそうだな。気持ちいいよ」
「レイスってめっちゃ図太いですよね。まあ、良いですけど。それより、せっかく私が膝枕をしてあげたんですから戦場ではしっかり仕事をして貰いますよ?」
「……お前それは押し売りすぎないか?」
酷い押し売りだ。何かをして貰った後にこういわれては断わりずらい。まあ、今回は断わるつもりなんか無いんだけどな。下手に手を抜いてイリアを危険に晒すくらいなら久しぶりに本気を出してもいいのかもしれない。
「押し売りでもなんでも、こんなに良い思いをしたんですから、わかってますよね?」
「わかってるって。三年分養われた恩はしっかり返す。その代わり、この戦争を終わらせることが出来たら貸し借りなしだからな」
「もし、そうなったらレイスを一生養ってあげます」
「マジで!?」
つまり、今回本気で仕事をして戦争に勝つことができたのなら俺は一生働かなくて済むってわけだ。ここが俺の頑張り時なのは確実。勝利条件はイリアを守りつつこの戦争を勝利に導くこと。
「大マジです。この戦争に勝てたらの話ですけどね」
微笑を浮かべながらイリアは俺の髪を撫でてくる。くすぐったかったけど、俺の髪を撫でるイリアが本当に楽しそうでやめさせることができなかった。
「大丈夫だ。お前は俺が死なせない」
「なんですかいきなり」
「隠しきれてないぞ。お前さっきからずっと手が震えてるんだよ。実は怖いんじゃないか?」
俺も初めて戦場に立ったときは物凄く不安だった。不安だったし怖かった。それでも、当時の俺は戦場に立つしかなかった。今のイリアも似たようなものだろう。立場的に戦場に立った経験も少ないはずだ。震えるほど不安になるのも当然だろう。
「あなた、そういう所は目ざといですよね。確かに怖いです。私はこの戦場で死ぬかもしれない。私が死ななくても姫様が殺されるかもしれない。そう思うと怖くて仕方ないんです。情けないですよね」
「情けないわけないだろ。死ぬのが怖いのは誰だって同じだ。むしろ、死ぬかもしれないのに全く怖くないって言う奴の方が人間的に壊れてる」
俺だって死ぬのは怖い。だから戦場になんか立ちたくない。でも、自分が戦場に立てば救えるかもしれない大切な人の命が戦場に出ないことによって失われることの方が倍怖い。
「たまには良いこと言うんですね。ヒキニートの癖に」
「だから、最後のヒキニートいらないだろ。なんで付け加えるんだよ」
良い事を言ったはずなのになぜか最終的に貶された気がする。まあ、イリアなりに不安を紛らわせようとしているのかもしれない。不安や恐怖に染まってしまうよりはだいぶマシだ。
「ははっ。まあ、良いじゃないですか。それよりも寝ていいですよ。まだまだ前線までは時間がかかるし、ついたらこんな風にゆっくりできないでしょうから」
「わかった。お言葉に甘えてそうさせてもらうよ」
俺はイリアに頭を撫でられながらそのまま眠りについた。
◇
「寝ましたか。相変わらず寝顔は可愛いんですよね」
私はレイスの頬をつつきながら思考を巡らせる。これから向かう戦場の事。テラソルス王国の未来について。考えれば考えるほど不安になってくる。私だって戦場に立つのは久しぶりです。というか、戦場に立った回数なんて片手で数えるほどしかない。
「そういう点ではレイスがついてきてくれて心強いですね。この人がいれば本当に今回の戦争に勝てるかもしれないですし」
レイスは普段はどうしようもないクズのダメ人間ですが、実力は本物。三年前の一件以来腐ってしまったけど、元々は私が尊敬できるほどの立派な騎士でしたからね。「世界最強の騎士」それが三年前のレイスにつけられた二つ名。
「世間ではすでに死んだことになっていますが」
レイスは二度と戦場に立つなんてごめんだと言っていましたが、今の私はレイスに頼らなければどうしようもないくらいに追い込まれています。レイスの力を借りれなければこの戦争には絶対に勝てないでしょう。
「あなたが頼みの綱で私の切り札なんですからね。頼みましたよ」
レイスの髪を撫でながら私は馬車の外を眺める。そこには綺麗な草原が広がっていて気持ちのよさそうなそよ風が草木を揺らしていた。こんな美しい風景を守るためにも今回の戦争で負けるわけにはいかない。
「グランヴァイス卿、アルカ殿下がお呼びです!」
私が馬車の外を眺めていると、外を歩く伝令からそう伝えられた。私たちは姫様たちの少し前を馬車で進んでおり、姫様は後方の騎士たちに守られた馬車の中にいる。そんな殿下が私を呼ぶのだから何か問題があったのかもしれない。
「わかりました。すぐに向かいます」
レイスの頭を丁寧に降ろしてから私は馬車を降りて姫様の元に向かった。




