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世界最強のヒキニート〜ただ、平穏にヒモ生活を送りたいだけなのに  作者: 夜空 叶ト


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第5話 戦場トンズラ計画失敗!!

「よし、周りに人の気配もないしそろそろいいだろ」


 数時間ぶりに起き上がって空を見上げると、そこには雄大に輝く月が地獄の戦場を照らしていた。流石に夜という事もあって昼ほど戦闘音は大きくないし、人の気配もほとんどない。いたとしても哨戒をしている兵士が二、三人見当たるくらいだろう。


「よしよしよし。計画通りだ。あとは野営地にいる傭兵団の連中と兵士と騎士にバレなければこのまま帰れる」


 帰ったあとは、イリアを泣かす。完璧なプランだろ。


「じゃ、早速やりますかね。〈雷神よ・我が身を巡りて・舞え〉」


 周囲に人がいないのを確認してから俺は使い慣れた魔法、〈ケラウノス〉を発動させる。瞬間、全身を雷が駆け巡り俺の身体能力を大幅に引き上げる。魔法を使うのなんて三年ぶりだから、ちゃんと使えるのか少しばかり不安ではあったけど問題ないようで安心した。


「とっとと帰りますか。魔法を使えることを傭兵団の奴らに知られてなくて本当に良かった」


 知られてたらこんなに簡単にこの戦場を抜け出すことはできなかっただろうし。その点に関してだけはイリアに感謝だな。いや、まあここに送り込んだのもイリアなわけだから感謝するのも変な話なんだけど。


「よし。周りに人はいないし、今の俺を視認できるような奴はここにはいないだろう。てことであばよ!」


 魔法を駆使して全力で戦場を駆ける。今の俺に追いつける奴は誰もいない。見る見るうちに景色が移り変わっていく。数分もする頃には先ほどまでいた最前線からそれなりの距離がある野営地が目に入ってきた。


「やっぱり、この魔法を使うと移動速度が頭おかしくなるな。燃費もそこまで悪いわけじゃないし」


 見つからないように野営地を少し迂回する形で通り過ぎる。誰も気づいていないようでホッとする。ここで見つかろうものならマジで面倒なことになる。俺はこのまま家に帰ってヒキニート生活を謳歌する。もう、何をされたって働かない。やっぱり俺には労働ってもんが根っこから向いてなかったんだ。今回の一件でそれが痛い程わかった。


「というか、いくら働かせたいからってクソみたいな傭兵団に勝手に入れるのは違うだろ。全く何してくれてんだよ」


 これで僕が死んでしまったらどう責任を取ってくれるって言うんだ。あいつなら、それはそれで仕方ないとか言いそうだな。酷い奴だ。


「ま、いいや。俺が考えないといけないことは家に帰ってからどうやってイリアを泣かせるか。それとどうやってイリアを説得して養ってもらうかだな」


 下手を打つと本当に叩き切られかねないから慎重に言葉を選んで媚びを売らないといけない。でも、イリアってお世辞とか言っても受け流すし、あんまり効果的に思えないんだよな。


「いやいや、弱気になったらダメだ。レイス・グランバード。ここで諦めたら俺の輝かしいヒキニート生活はどうなってしまうんだ。社会の歯車として労働をするなんて絶対に嫌だ」


 なんとしてでも、どんな手段を用いても俺は絶対にヒキニート生活を送る。そのためならなにを賭けたって構わない。

 くだらない事を考えていると、少しづつ周囲は明るくなってきた。綺麗な草原に一本の舗装された道。その真ん中を全力で走る。木々は風に吹かれてそよそよと気持ちがよさそうに揺れていた。俺も家に戻ったら昼寝でもしよう。そう決めて足を動かす速度を上げる。来るときは数日かけて馬車で来たというのに魔法を使って全力で走れば数時間で済むんだから中々に良い速度だ。


「ま、それなりに疲れるからあんまりしたくないんだけどな」


 言っているうちに見慣れた石造りの立派な城門が目に入ってくる。テラソルス王国の王都、テラセスを守る壁であり普段は開け放たれているがこの時間帯は流石に開いていない。開く時間まで待っても良いが、そんなことをしなくても城門なんか飛び越えればいいんだ。


「そろそろ来る頃だと思っていましたよ。レイス」


「……え? なんでイリアがここに」


 城門の前には見慣れた絶世の美女が佇んでいた。腕を組み、鎧に身を包んでいる彼女はまるで伝説に出てくる戦乙女のような風貌であった。一つ、違う点を挙げるとすれば絵画のように穏やかな表情ではなく額に青筋を浮かべているという点だろうか。


「三年もあなたみたいなごく潰しのヒキニートの世話をしてきたのです。何を考えているかくらいはわかりますよ」


 ……あら、相当に怒っていらっしゃる。これ、土下座で許してもらえるかな? うん、無理じゃない? 今まで見たことないくらい怒ってるし。


「所で、そんな場所にお立ちになって何をしていらっしゃるんでしょうか?」


「わかってるでしょう? あなたもそこまで馬鹿じゃないはずですしね」


 額に青筋を浮かべながら微笑むとか言う器用な事をしながら、イリアはゴキゴキと拳を鳴らす。怒っている顔も凄く可愛らしいと思う。でも、やっぱり怒ってる顔よりも笑顔の方が似合うと思うんだけどなぁ。褒めたら許してくれないかな……無理ですよね。


「あなたを数日かけて戦場に送ったのにすぐに帰ってきやがるなんて。とんだ能力の無駄遣いです」


 ああ、これは絶対に許してもらえない奴だ。なんなら怒られた挙句、イリア同伴でもう一度戦場に送り込まれる奴だぁ。


「は、はは」


 どうしてこうなるんだぁぁぁぁぁぁぁ


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