第4話 友軍が味方であるとは限らない
「おっ、生きてたかレイス」
「そう簡単に死んでたまるかよ。それよりもルルアも無事みたいだな」
少し経った後、隅っこで休憩してたらルルアに見つかった。幸いと言っていいのかサボっていたとは思われていないようだ。危ない危ない。
「それもそうだな。それよりもこんなところで何してるんだ? だいぶ前線から離れてるが」
「いや、ちょっと負傷したから後方に下がってたんだよ」
「ん? そう言う割にはどこにも怪我が見当たらないし、血もついてないぞ? 本当に負傷したのか?」
ルルアは疑わしそうに俺のことを見てくる。不味いな。確かに俺の服には怪我をした跡どころか、返り血すらついていない。これで負傷したからって言うのは無理があったか。
「あ、はは。それよりもルルアはどうしてこんなところにいるんだ? まだまだ前線で暴れるもんだと思ってたけど」
「そのつもりだったんだけど、流石にバディを放り出して前に行き過ぎるのもどうかと思ってな。レイスのことを探してたんだ。大丈夫そうだから今すぐ二人で前線に行くぞ!」
「ま、待て! 首根っこを掴むな。待てって。もしかして、本気で今から前線に引っ張っていく気じゃないよな?」
「まさかも何もその気だって言ってるだろ。ほら行くぞ」
こいつ、なんて馬鹿力してんだ。全く抵抗ができん。このままじゃあ、マジで魔法士だらけの戦場の最前線に引っ張って行かれる。マジで嫌なんだけど、抵抗しても無駄そうだしなぁ。
「どうして、こうなるんだよぉ~!」
ありえないくらいのスピードでルルアに引きずられながら俺は誓う。絶対にこのクソッたれ傭兵団を脱退することと、このクソ戦場からトンズラすること。そして、俺が無事に生きて帰れた暁にはイリアの奴を何としてでも泣かせると。
「にしても、この戦場は本当に魔法士が多いなぁ。僕も結構な数の戦場を渡り歩いてきたけど、こんなに魔法士を見かけるのは珍しいな。レイスはどう思う?」
「なんで俺に聞くんだよ。ルルアと違って俺は傭兵にされたばっかりだし戦場を渡り歩いた経験なんか無いんだからわかんねぇよ」
「ん? そんな嘘はいらないぞ? 僕は目に自信があるんだ。レイスの立ち振る舞いは戦場を経験した奴のそれだ」
ほんとに勘が良いなこいつは。何を言っても、ごまかしても全部バレそうだ。こういう手合いは苦手だな。
「じゃあ、今回はルルアの目が間違ってるんじゃないか? 俺は他人のスネをかじって生きてきたヒキニートだぜ?」
「お前……それを自分で言ってて悲しくならないのか?」
「馬鹿が。ヒキニートであることを恥じたことなんて俺は無い」
「そんな恥ずかしい事を何の恥ずかしげもなくドヤ顔で言える人間を僕は初めて見たよ。なんだか、レイスも凄いんだね」
物凄い憐みの目線を向けられてるけど、慣れたものだ。イリアからは最近毎日似たような視線を受けてたし、イリアの部下が屋敷を連れてきた時なんかは本当にゴミを見るような目で見られたものだ。懐かしいな。だが、そんな程度でヒモをやめるくらいなら俺は二年もヒモとして生活していない。
「ほら、そろそろ着くぞ。レイスも無駄なこと言ってないで敵を殺すことを考えろ。こっから先は相手の上位魔法士が出てくる。油断してたら一瞬で灰にされるからな」
「え~と、このまま後方に逃げるって言うのはダメか?」
「良いわけないだろ。お前、もし逃げたら即座に叩き切るからな。リティス傭兵団は敵前逃亡即斬だからな。覚えておけよ?」
目がマジだ。もし、本当に俺が後ろに逃げようものならルルアは何の躊躇もなしに俺の事をあの大剣の錆にするつもりなんだろう。なんならさっきテント内にいた傭兵全員が嬉々として俺のことを殺しに来る未来が容易に想像できてしまう。
なぜだろう。俺の今の状況って詰んでるんだろう。普通の戦場の数倍は過酷な状況下にいる気がしてならない。それもこれも全部勝手に俺をこんな傭兵団にぶち込んだイリアのせいだ。絶対に許さない。絶対に許さないぞぉ。
「あ、不味い。レイス、すまん」
「……はっ!?」
気が付いたころにはルルアに前方に投げられていた。体が宙を舞う感覚、直後に背中が何かに焼かれるかのような錯覚を覚える。いや、これは錯覚ではない。本当に背中を焼かれてる!?
「おい、マジかよ!」
背中には敵の魔法士が放った火球が背中に当たっていた。あいつ……なんの躊躇もなく人のことを盾にしやがった。嘘だろ?
「うぎゃぁぁぁぁぁ」
おかしい。なんで引きづられて、最前線にまで連れてこられた挙句に盾にされないといけないんだ。酷すぎるだろ。てか、魔法が魔法だったら今ので俺は消し炭になってたぞ。
「ああ、ダメだ。この戦場だけはダメだ。命がいくつあってもマジで足りない。ていうか、せめて友軍くらいは味方でいてくれよ」
ルルアに投げられ、敵の魔法士の火球をもろに喰らった俺はそのまま彼方に吹き飛んでいく。てか、この状況利用できるんじゃないか? ルルアから見たら魔法に直撃したように見えてるだろうしこのまま戻らなかったら勝手に死んだと判断してくれるはず。何よりあいつには俺に執着する理由が何一つとしてない。
「望んだ形とは違うけど、何とかトンズラできそうだ」
地面に顔面から突き刺さった俺はそのまま日が暮れるまで死んだふりを続けることにした。




