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世界最強のヒキニート〜ただ、平穏にヒモ生活を送りたいだけなのに  作者: 夜空 叶ト


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第2話 よそこそイカレ傭兵団へ

 イテリア地方の東部。テラソルス王国とルナセリア帝国の戦場の最前線であるサリア平原。綺麗な緑色の草木が生い茂る平原で普段であればピクニックをしたら物凄く気持ちのいい場所だろう。日向ぼっこをして過ごすのも悪くないかもしれない。


「いやぁぁぁぁぁ」


 だが、今は絶対にダメだ。綺麗な草木は焼かれ、澄んでいるはずの空気は血と硝煙の匂いがした。

 周囲からは絶えず絶叫が聞こえてくるし、少し前を向いてみれば燃え盛る火の柱が昇っていたり、暴れ狂う暴風が砂塵をばらまいていたりしている。

 きっと、こういう場所を地獄って言うんだろうなぁ~


「おい、さっさと降りろ。お前のテントはあそこだ。それじゃあな」


「待ってくれ! まさか、こんな地獄に俺をほっぽり出してお前らは帰るとかそんな事言わないよな!?」


「我々はグランヴァイス卿の指示で貴様をここに送り届けただけだ。お前がこの戦場でどんな目に遭おうとも知ったことではない」


「お前らそれでも人間かよ。少しは人の心ってものをだなぁ」


「お前とはまともに会話にならないから会話をしなくてもよいとグランヴァイス卿に言われている。それではな」


 イリアの野郎、そんなに俺を殺したいのか? こんな地獄冗談じゃねぇぞ。

 一体俺があいつに何をしたって言うんだ。少なくとも、命がいくつあっても足りないような戦場に放り込まれるほどの恨みを買った覚えはないぞ!?


「お前が団長の言ってた新人だな! 時間もないからとっととこっちにこい」


「誰だお前は」


 目の前に現れたのはかなり小柄な少女だ。150cmほどの身長に背中にはかなり大きい大剣を背負っている。この少女がこの大剣を振り回すのか? 自身と同じくらいある長さだぞ?


「僕はリティス傭兵団のルルア・ローレライだ。今日からお前の先輩になるな。テント内にお前宛の手紙と荷物が届いてるぞ。とりあえず、もろもろの説明とかもあるからとっととついてこい。新入り」


 こんなに小柄なのに、逆らえないような覇気を感じる。傭兵団所属という事もあって、かなりの修羅場をくぐってきているのかもしれない。いつもみたいに駄々をこねてみるか? いや、こういう手合いは冗談が通じないことが多い。変な事をしたらぶった切られる可能性すらある。ここは素直にこいつについていくのが賢明か。はぁ、どうして俺がこんな目に。


 俺は小柄な少女、ルルアに案内されるがままにボロボロのテントの中に足を踏み入れた。


「何だここ。酷い場所だな」


 テントの中はかなり汚くて、土や血に濡れた布やカビが生えていそうな布団などが置かれおりこが寝泊まりをする場所であることがかろうじてわかる。

 いや、こんなところで寝てたら変な病気になるだろ。冗談キツいぜ。てか、本当に俺はこれからこんな汚いカスみたいなところで生活しないといけないの? しかも命すら消耗品みたいに扱われる傭兵として?


「お前の寝場所はここだ。隣のベッドは私が寝るからその気でな。変な事をしようとしたら迷わずお前のことを叩き切るから覚悟しておけよな」


「誰がお前みたいなガキに手を出すかよ。もっと年取ってから出直して来いよ」


 ボロボロではあるが容姿が整っているように思う。海のような青色の短髪に自信に満ち溢れていそうな赤い釣り目の持ち主で、こんな戦場に居ずに暮らしていればかなりモテそうな容姿をしていた

 だけど、俺のタイプじゃないな。それに今すぐにでもここからトンズラしたい俺はこいつの目をどうにかして搔い潜ってこの戦場から脱走しなければならない。


「ガキだと? これでも僕は二十一歳だぞ。お前よりも年上のはずだぞ」


「はっ!? その見た目で二十一歳!? 何の冗談だよ。てか、なんでお前は俺の歳を知ってるんだよ」


「傭兵団に加入するときの書類でお前の事は一通り知ってる。あと、次僕に対して身長とか見た目の事を言ったら問答無用で叩き切るからその気でいろよ?」


 目がマジだ。今度からこの人の外見で何かを言うのは絶対にやめておこう。じゃないと普通に死にかねない。イリアは言うだけで行動に移すことはほとんど無かったけど、この小柄な少女は問答無用で実行してくる。会って数分しか経ってないけど、何故だかそんな確信があった。


「あっハイ。すんませんした」


「わかればよろしい。で、これがお前宛に届いてる荷物だな。長剣と手紙か? これは」


「手紙? 一体誰からだ」


 俺に手紙を送る人間なんて一人しかいないわけだが、一応誰が送ったのかを確認する。やはりと言うべきか、イリアからだった。こんな地獄に俺のことを送り込んでおいて、一体どんな内容の手紙を送ってきやがったんだ?


「ま、手紙を読むくらいの時間はやるさ。読み終わったら声をかけろ。テントの外にいるから。先に言っておくが、逃げようとしたら問答無用で殺すから」


「……はい」


 俺の考えていることはお見通しなのか、それともイリアから事前に俺が逃げようとするであろうことを聞いたのかは知らないがかなり警戒されてるな。本気で俺をこの戦場から逃がす気ないじゃん。え? そこまでするの? そこまで恨まれてたのかよ。


「いったん手紙を読んでみよう。もしかしたら、冗談でした~今すぐに帰ってきてもいいよ~って書かれてるかもしれない!」


 期待を胸に手紙を開けると、そこには簡潔に「この戦争が終結したら帰ってきていいぞ」とだけ書いてあった。これって、俺が死ぬか戦争に勝つかの二択しかないってことじゃないか? 嘘だろ?


「なにしてくれてんの? マジで俺を殺す気じゃん。もう、終わりじゃん」


 イリアがどうあっても俺のことを生きて帰す気がない事がこの手紙を読んでよくわかった。つまり、忠実にこの戦場で戦うよりも何とか命からがらトンズラしたほうが圧倒的に生存率が高いということだな。


「俺が最優先で考えることは、このカスみたいな戦場から何とかして逃げ出すこと。そして、イリアに土下座して再びヒモとして買ってもらえるように交渉すること」


 よし。やるべきことは完全に決まったな。問題はどうやって、あのチビの目を搔い潜ってこの地獄の戦場からトンズラするかだな。


「おい新入り! いつまで手紙を読んでんだ。そろそろ行くぞ!」


「わかったって。てか、なんでずっと俺の事新入りって呼ぶんだ?」


「だって、お前は今日から入団した新入りだろ? 何一つ間違っていないじゃないか」


「わかりにくいから名前で呼んでくれ。歳を知ってるくらいなんだから名前くらい知ってんだろ?」


 自分の個人情報を勝手に握られてるのは居心地が悪いが、どうせすぐにトンズラする戦場だ。多少情報を掴まれていてもすぐに攻性魔法とかで吹っ飛ばされるだろ。知らんけど。


「ああ、確かレイスだったか?」


「そうそう。レイス。レイス・グランバード君だ。短い期間になるとは思うがこれからよろしく頼む」


「短い期間? 何言ってんだお前は。このリティス傭兵団に入団したんだから途中で団を抜けることなんかできないぞ? 団を抜ける時は死ぬ時くらいだな」


 イリアの野郎、マジでなんちゅう傭兵団に勝手にぶち込んでくれてんだ。完全にやばい集団じゃないか。


「それに、リティス傭兵団から勝手に逃げようとした奴は僕たちが地の果てまで追い回して連れ戻すから無駄なことは考えるんじゃないぞ? しばらくの間は僕がレイスのバディとしてお前を監視するからな」


「……はぁ」


 どうやら俺は地獄の最前線に送り込まれただけじゃなく、意味わからんくらいブラックなイカレ集団に無断で入れられたらしい。イリアの奴、俺が無事に戻ったら絶対に泣かせてやる。何があっても絶対に泣かせてやるからな。


 俺はそう決意をしてルルアに案内されたひと際大きなテントに連れて行かれる。

 なんとしてでも俺はこの地獄みたいな戦場から生き残って、このイカれた傭兵団からも抜け出して再び悠々自適なヒモライフを謳歌するんだ。この戦場から抜け出せたら絶対にイリアは泣かす。何があっても絶対にあいつは泣かす。

 これだけは決定事項だ。


「お前が新入りのレイスか。ヒョロっちい見た目してるが大丈夫なのか?」


「多分大丈夫ですよ団長! 最悪死んでも僕がこいつの骨くらいは回収してくるんで」


 恐ろしい事をルルアは普通の顔で言う。顔は可愛いのに言ってることは凶悪すぎて全く可愛いと思えない。マジで関わり合いたくない手合いなのにこいつがこれから俺のバディだなんて信じたくもない。


「ルルアがそう言うなら大丈夫だな。じゃあ、さっさく作戦を話すぜ。依頼を受けたからには俺達リティス傭兵団がしっかりとこの戦場を勝ち戦にしなけりゃならねぇ」

 ひと際大きな男が声を張り上げてそう言うとテント内にいた団員と思しき奴らが声を張り上げる。傭兵団と言うだけあって纏まりがあるらしい。だが、こんなイカれた集団に所属しているくらいだからテント内にいる男たちは全員ガラが悪かった。


「全然大丈夫じゃないだろ。てか、どうやってこの負け確定の戦場を勝ち戦にするってんだよ」


 この戦場には圧倒的に魔法士の数が足りていないように思える。魔法士一人で普通の歩兵千人分の戦力と言われる今の戦争で魔法士の数が足りていないというのは戦力的に見て致命的だ。そもそもとして、傭兵団なんか雇う余裕があるなら魔法士を数人雇うほうがよっぽど現実的だ。国の上層部は一体何を考えているのか。


「うるさいぞレイス。どうにかするって言ったらどうにかするんだ。僕たちはどうやって何とかするかを考えないといけないんだ」


「そんな無茶苦茶な」


 そんな根性論で戦争に勝てるなら敗戦国は存在しない。絶対にこいつらはやばい。というか、なんで今までこんなイカれた傭兵団が続いているのか疑問で仕方がない。しかも、傭兵団に入ったら最後、死ぬまで働かされるとかいうおまけつきだ。正直やってられない。


(こんなことなら、普通の職場に就職しておけばよかった)


 そんな後悔を胸に抱きながらイカレた傭兵団の作戦会議? に耳を傾ける。

 マジで家に帰りたいな。


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