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第9話 蒸気からくりサーカス団

 二台の蒸気式自動走行二輪車(スチームバイク)が颯爽と町中を駆け抜けていく……乗っているのはミハイルとクラウスである。ミハイルが初めて乗った時から乗りこなした事は前述した通りであるが、クラウスも父から送られたもう一台目(結局複数台製造し始めた)に乗り始めると次第に慣れてきて、今や何の不自由もなく乗り回せるまでになっていた。

 この日、二人は今ローゼンベルグ市に来ている話題の蒸気絡繰(からくり)サーカス団を見物に、スチームバイクに乗って街へと繰り出したのだった。


 街の中央広場に張られたサーカス団のテントの前は出入りする人々でごった返していた。二人がスチームバイクで乗り付けると一部の人々は物珍しそうな目でそれに目をやった……が、もちろん大部分の人々はそんなものよりもこれから見る(または今さっき見てきたばかりの)サーカス団の方に興味津々といった様子である。


「はぁ~、まるで風になったように疾走するのは本当に気持ちが良いもんだね。乗馬とも似てるが少し違う感覚でもある、本当にこのスチームバイクってヤツは最高だよ、クロウ」

「ああ、僕もね……最初は我が父ながらとんでもない代物を作ったもんだと思ってたが、いざ乗りこなせるようになってみると楽しいし何より便利だ。今じゃあ本当に普及して欲しいと思うよ」


 二人はスチームバイクを広場の端に停めて鎖で車輪を固定すると見物の群衆の中へと混じって行った。とはいえそれが盗まれる心配はほぼ無いに等しい。動かし方を知らなければとてつもなく重い鋼鉄の塊だし、もし動かせたとしてもとても初見で乗りこなせるような代物ではなかったからだ。


「…そういやこのサーカス団も蒸気仕掛けの絡繰りを多数使った見世物が人気だって話だよ」

「ああ、楽しみだな……さあ、行こうか!」


 ……そして二人は心行くまでサーカスを楽しんだのであった。蒸気絡繰りサーカス団と謳っているだけあって、その団員は半分以上が(正確に言うと裏方のスタッフを除く花形が殆ど全て)オートマタと呼ばれる自動人形であった。蒸気絡繰り象による曲芸、蒸気絡繰り軽業師による空中ブランコ、蒸気絡繰り踊り子の舞踏、蒸気絡繰り道化師の手品、等々……。

 全てのショーが終り、見物人達がぞろぞろとテントから吐き出されてきた……その中にミハイルとクラウスは知った顔を見付けた。


「おや……」


 最初に気付いたのはクラウスであった。


「……見てみろよミカ、あそこにいるのは上級生のタルレット先輩じゃないかな?」

「……本当だ。君以上の真面目な堅物で、こんなものには興味なんて無いと思ってたがな……あの人もサーカスなんて物を見るんだね。意外な感じだ……おや、向こうもこっちに気付いたようだよ……タルレット先輩!」


 そのタルレットと呼ばれた男も二人に挨拶した。


「やあ、ミハイル君、クラウス君、君らもサーカス見物かい?」

「ええ…」

「先輩も…?」

「ああ…今月もう十回も来ているんだ……」

「……えぇっ!?」


 二人は驚いた。


「それは……いくら面白いサーカスだからって……ちょっとハマり過ぎじゃないですか……?」

「ああ……そうかも知れない……」


 …と、タルレットは少し戸惑ったような様子を見せつつ言った。


「……自分でもおかしいと思うよ……けど、どうしようもないんだ……この想いは止められないんだ……」

「はあ……?」


二人は首をかしげる。


「ひょっとして何か、このサーカスに先輩の心を捉えて離さないものがあるんですか……?」

「ああ、ある……」

「何です?」

「言ったら変に思うだろうなぁ……」

「思いませんから、教えてください」

「うん……つまりだな……」


 …と、タルレットは言いかけて、やめて、また口を開こうとして、言いよどんで、とうとう言った。


「……このサーカス団に所属している絡繰り人形(オートマタ)のローザムンテだ。どうやら、僕は彼女に恋をしてしまったらしい……」

「「えぇ…っ!?」」

「…ほら! やっぱり変に思ったじゃないか」

「そりゃあ……ローザ……ええ、覚えてますよ、蒸気絡繰りの踊り子ですよね。確かに外見だけは美しい乙女の姿をしてましたね」

「ああ、あれが本物の血の通った生きた人間だったら、そりゃあ男達が放っとかないだろうが……けど彼女はオートマタですよ。そのお気持ち、全く理解出来ないとまでは言いませんが、所詮叶わぬ恋というやつです。早くお諦めになって、ちゃんとした人間の女性を好きになるのが健全だと思いますよ」

「ところが諦めきれないんで、こうして通ってるんじゃないか……」

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