第7話 平民俱楽部
「…一体何なんだい? 頼みたい事ってのは……」
こんな風にミハイルが頼み事をして来るのは実は珍しい事なのでクラウスも改めて訊き直した。
「…うん、君はこの学園にある『平民倶楽部』っていう社交クラブを知ってるかい?」
「平民倶楽部か……聞いた事はある」
平民俱楽部……これはその名の通り、王侯貴族や富豪の子女達が多くを占めるこのローゼンベルグ王立学院において、平民出身(当然ながらその多くが奨学生であるのだが)の学生達がお互いに親交を深めようという目的で設立した社交クラブである。
「いや実はね、そのクラブにシュライバーという人物がいるんだが、僕はかねがね彼とお近付きになりたいと思っていたんだ」
「ミカ、君のように放っといても勝手に周りに人が集まって来るような人間が、わざわざ仲良くなりたいと思うなんて……一体そのシュライバーってのはどんな人物なんだい?」
「…そう……一言で言うと、若き歴史学者……といった所かな」
「歴史学者……?」
「ああ、そもそも彼のお父上からしてが、さる大学で教鞭を取りつつ歴史研究に人生を捧げていらっしゃる学者さんでね、その影響でか息子であるシュライバーも学生の身でありながら歴史の研究に熱心に取り組んでいるらしいんだが……その彼のお父上が我がヴァンデュボン大公国もある大陸中央部の歴史も研究しておられてね。その名もその通り『大陸中央部概略史』という著作まで著されておられる。それで、ぜひとも色々と話がしたいんだよ」
「なるほど……で、僕の出番という訳だね。平民俱楽部はやっぱりその名の通り平民しか入れないから……」
「そう! まず君に平民俱楽部のメンバーになってもらいたいんだ。それからシュライバー君を僕に紹介なり何なりしてもらえないかな……どうだろうか?」
「そんな事……お安い御用だ!その代わりスチームバイクの件は頼むよ」
「ああ、任せておいてくれ。僕としてはこんな楽しい乗り物を好きに乗り回らせてもらえる上に、我が祖先の歴史の事も色々と知れる機会に恵まれて、まったく良い事づくめで申し訳ないくらいだよ」
かくして交換条件が成立、二人は握手を交わした……。
― ― ― ― ―
それから数日後、クラウスはミハイルに言った。
「ミカ、平民倶楽部の会員になって来たよ……」
「そうか! …で、シュライバー君には近付きになれたかい?」
「……ああ、確かに君が興味を持つような人物だけあって面白い男だった。特に話が歴史に関する事に及ぶと目に輝きが増したなぁ……実に話し相手としても楽しい男だったよ」
「そうか!…で、僕が彼に会いたがってるって事も伝えてもらえたかい?」
「それが……その点でちょっと問題があってさ……」
…と、ここでクラウスは少し困ったような表情になった。
「何だい?」
「実はシュライバー君は王侯貴族とは話せないって言うんだ……」
「なにぃっ!? 王侯とは話がしたくないって言うのか!? 彼がそんな人間だったなんて…!!」
憤りかけるミハイルに、クラウスは慌てて言い添えた。
「……あぁ!勘違いしないでくれ!彼は別に特別な思想信条なんかの持ち主ではないよ……ただ、王侯貴族を前にすると気後れして緊張して吐き気がしてきて終いには気を失ってぶっ倒れてしまうって言うんだ」
「そんなんでよく今日までこの学園で生きてこられたな……」
「平民俱楽部は彼にとって憩いの場らしいよ……そういう訳でミカ、残念だが他国の君主の子息である君なんてとてもじゃないが、そのままじゃあ彼と話す事なんて出来やしないって訳だ……」
「そうか、残念だなぁ…………いや、待てよクロウ? 君は今何と言った?『そのままじゃあ』と言ったね? つまりどうにかすれば僕はシュライバーと友達になれるって訳か?」
「ああ、そういう事になるんだが……まぁ……」
クラウスは何か言いよどんでいるようだった。ミハイルは促した。
「…何だい? 言えよ。頼む!教えてくれ」
「うん……実は平民俱楽部でアメリア・シャイロックに会ってさ、彼女も俱楽部のメンバーだったから……」
「彼女は大富豪の娘じゃないか。何でそんなのが平民俱楽部に出入り出来る?」
「身分的には王侯貴族じゃなくて『平民』に分類されるから、会則によるとOKらしいよ……それで、この件に関して相談に乗ってくれてさ。シュライバーと君を引き合わせられる良い案があるって……」
「何だい?」
「そこまでは教えてもらってないんだ。ただ今日この後、男子寮と女子寮の間にある中庭で待ち合わせてる。当然だが君も一緒に連れて来てくれってさ。行くかい?」
「もちろんだとも!」
そこで二人は連れ立って中庭へと向かった……。




