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第3話 宝石探し

 …さて、それから数日というもの、ミハイルとクラウスは言った通り例の宝石探しに取り組んだ。……と言っても、そこまで真剣にあちこち眼を皿のようにして探して回るという事もなく、せいぜい辺りをいつもよりちょっぴり注意して見て回るといった程度であった(その点に関して言えば彼らよりもずっと必死に探し回っている者達が大勢いたのだ)。


「……どうだいクロウ? 例の宝石に関して、何か分かった事でもあったかい?」

「いやミカ、サッパリだよ。そもそも俺達なんかよりもずっと熱心に探し回ってる連中が大勢いて、学園内のめぼしい所は彼らによってあらかた探し尽くされちゃってるんだもんなぁ……それでも出て来ないんだから、これはもう学園の中には無いんじゃないかと思うよ」

「うぅ~ん……確かにそうかも知れない。だがそう結論付ける前に、もう少しだけ調べてみようかと思ってるんだ」

「何だい?」

「いや、シャルロッテ殿下に直接お会いして、その宝石を無くした時の状況を聞いてみたいと思ってるんだ。今日、約束している」

「そうか。確かに、いつどこで無くしたのかって知らずに闇雲に探し回るのと、知った上で探すのとでは大違いだもんな。良い案だ。朗報待ってるよ」

「何言ってるんだ? 君も一緒に行くんだよ」

「えぇ…!?」


 学則により男子寮、女子寮は互いの行き来は禁じられているので、二人はその中間にある中庭でシャルロッテ王女と会った。中庭と言ってもとてつもなく広くちょっとした森林になっており、池やその周辺を回遊する遊歩道まであった。その一角にある東屋(あずまや)の一つに王女とその侍女が待っていた。


「わざわざお時間をいただけ光栄に存じます、シャルロッテ殿下」

「いいえ、ミハイル殿。あなたも我が王家の家宝・炎竜の吐息をお探しになってくださっているとの事、有り難く思いますわ。ところで、そちらのお方は? 見た所、その……このような言い方をしてはどうかとは思いますが……あまり身分の高そうな御仁には見えないのですけれど、ひょっとして平民の奨学生……」


 そう言って王女はクラウスの方に目をやったので、クラウスは慌てて名を名乗った。


「…あぁ!し、失礼いたしました殿下!私はクラウス・ミューラーと申しまして、お察しの通り平民の出で、ミハイル様とは寮で相部屋でして、つまり、その……」

「彼は私の親友です、殿下」


 慌てるクラウスをよそに、ミハイルは何の臆面も無く言いきった。


「…身分を問わず、彼が信頼に足る人物である事は私が証明いたします。そういう訳で、私にお話しくださる事は、このクラウスにもお聞かせいただく事をどうかお許しいただけますか」

「……ミハイル殿がそうおっしゃるのでしたら、信用いたしましょう」

「あ、ありがとうございます殿下……!」

「…良かったな、クロウ」

「…いやミカ、君のおかげだ」


 それに対してミハイルは何も言わずに少し微笑むと、改めて王女の方に向き直って言った。


「まあ、堅苦しい挨拶はこの辺にして、本題に入りましょうか」

「ええ、それでミハイル殿、私にお訊きしたい事とは……?」

「単刀直入に、(くだん)の宝石を無くされた日時と場所に関して、詳しくお伺いしたいのです」

「それが……いつ、どこで無くしたのかという記憶ははっきりありませんの……」

「それはそうか……では最後に確実に宝石があったと言える日時は覚えておられますか?」

「そうですわね……あれは……そう、半月ほど前の事かしらね……本学舎裏の園庭で友人達数人と一緒に昼食を楽しんでいて、話題がたまたま我が王家の家宝であるその紅玉(ルビー)の事に及んだのよ。それで友人の一人が是非それを実際に見たいと言い出して……」

「…それで、そこで取り出して見せたんですね?」

「ええ、紅玉は普段はいつも専用の袋に入れて肌身離さず大切に持ち歩いていたのだけれど…………そうだわ、そうだったわ!あの後無くなったんだったわ!きっとあの時の中の誰かが盗んだのに違いないわ!あぁ…!みんな友達だと思っていたのに……酷いわ!酷いわぁ…!!」

「ひ、姫様、どうぞお気を確かに…!」


 泣き崩れかけた王女の肩を侍女が支えた。ミハイルとクラウスも言う。


「落ち着いてください殿下」

「そ、そうですよ。まだ盗まれたと決まった訳じゃないじゃありませんか」

「グスン……そ、そうかしら……」

「そうですよ。大切な家宝を無くされ、不安なお気持ちはお察しいたします。人間、気持ちが弱った時には、つい人を疑いたくなってしまうものですからね」

「色々とお聞かせいただき、ありがとうございました。私達も殿下の宝石が早く見付かるよう、微力ながらお手伝いさせていただきたいと思います」


 …その後、ミハイルとクラウスは丁重に礼を述べ、王女の元を辞した。


「ミカ、どう思った?」

「うん、ありゃあたぶん盗まれたな」

「君もそう思ったか……」

「犯人は恐らくその友人の中の誰かじゃないかな。となると……」

「一人ずつ当たってみて、盗んだ者が判ったら、謝って返すよう説得しよう。でも認めるかな……」

「何なら名は伏せて我々が仲介しても良いさ」

「けど殿下に言った事は俺達にも言える事だよ。この件が盗難事件だと決め付ける前に、一応その園庭に行ってみないかい?」

「確かにその通りだ、クロウ」


 ……という事で二人は王女の話にあった園庭にやって来たのだった。ところが……


「…これは……」

「ありゃあ……こりゃ酷い有り様だなぁ……」


 園庭の花壇は滅茶苦茶に踏み荒らされていた。宝石探しに必死の学生達が辺り構わず踏み込んで荒らし回ったためらしい。


「いくら何でもこれは酷い……ミハイル、悪いけど俺はこの話は降りようと思うよ。この花壇を見ていたらもうやる気が無くなった。宝石発見の栄誉と謝礼は他の連中に譲ろうと思う。それよりこの花畑を元に戻してやりたい……」

「クラウス、君は優しいな……よし!そんなら僕も付き合おうじゃないか。園丁の小屋に行ってスコップや道具を借りて来よう」


 それで二人は園庭の隅にある小屋へと向かって行った。その庭の中央には噴水があり、そこの前を通りかかった時だった。


「……あれ?」


 クラウスが何かに気付いた。


「どうしたんだい、クロウ?」

「水の中に何か赤い物が落ちてるんだ……ほら、あそこだ。見えるかい?」

「本当だ。小さなリンゴみたいだが…………おい、まさか…!?」


 二人は靴もズボンもびしょ濡れになるのも構わず、噴水の水溜(みずため)の中へと入って行った。クラウスがその水中の赤い物を掴んで拾い上げる…………果たして、それは宝石と言うにしてはあまりに大きすぎる見事な紅玉であった。本当に目の覚めるような紅色で日光を浴びてキラキラと光り輝いている。


「これじゃないのか!?」

「そうだ!そうに違いない!こんな所にあったのか!」

「……けど、妙だなぁ……」


 クラウスは少し困惑気味に言った。


「……すぐに見付かりそうなもんだと思うけどな……何せ大勢の人間が何日にも渡って学園中探してたのに……この園庭だってこの有り様だ、探し尽くされたはずだ。それが……いくら水の中にあったからって、こんな浅い所じゃないか。それにこの噴水は全体的に白っぽい色をしているし……そこにこんな大きくて真っ赤な宝石が転がってたら、すぐに判りそうなもんだと思うけどな……」

「……たぶん、盗んだ犯人が良心の呵責に耐えられなくてここに捨てたんじゃないかな? そこに運良く最初に僕らが通り掛かったって所じゃないか…?」

「……確かにそうとも考えられるかも知れないけど、あるいは……」


 クラウスは手の上の紅玉と噴水の周囲の踏み荒らされた花畑を交互に見ながら言った。


「……この宝石を探してた連中は、まず花畑の方に意識が行っちゃったんじゃないかな。ほら、ここの花壇には赤い花が多いだろう。真っ赤な宝石を探そうとしている時には、まず自然と赤い物に目が行くんじゃないかな。だから一生懸命探し出そうとすればするほど、水の中に落ちていた目立たない宝石よりも赤い花壇の方に目が行っちゃうって寸法だ……」

「なるほど……」


 クラウスの論にミハイルは興味深そうに目を開いて言った。


「……そうとも考えられるな。見てみろ、この紅玉、表面にうっすら藻が付着してるぞ。確かに何日間も水の中にあったのかも知れない。案外、君の推論が真相なのかも知れないな。いずれにせよ、とにかく宝石は見付かったんだ。やったな、クロウ。君のお手柄だ。褒賞金だが、僕は要らないから権利は全て君に進呈するよ。好きにすると良い」

「それじゃあ、一部は僕の実家にでも送金させてもらうとしようかな。皆の喜ぶ顔が目に浮かぶよ……で、残りだけど……」


 クラウスは荒れた花壇を見渡して言った。


「…追加の園丁を雇って、一日も早くこの花畑を元に戻してやろうと思う」

「なるほど……確かに、それが最も良い使い道かも知れないな」

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