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第1話 出会い

 ここは私達の住む世界とはちょっとだけ違った歴史を辿っている世界。特筆すべきは科学技術の分野での蒸気機関の活用に関してである。この世界では蒸気機関がかなり発達している。私達の世界でもお馴染みの工場の機械や船舶・鉄道はもちろん、空を見上げれば蒸気エンジンを搭載した飛行船が飛び回っている。軍艦から大型豪華客船や貨物船、金持ちの個人用巡空挺(スカイクルーザー)なんてのまである。飛行船だけじゃない、蒸気絡繰りの自動人形(オートマタ)なんてのもいるし、愛玩用動物(ペット)まで蒸気絡繰り仕掛けのがいる。つまり実用・生活から娯楽の分野まで、蒸気機関は広く人々の生活に浸透している……そんな世界である。

 …とはいえそんな蒸気機関達が話題に出て来るのはちょっとだけ先……まずはこの物語の軸となる存在、二人の少年達の出会いから話を始めたいと思う……。


 ― ― ― ― ―



「はぁ……参ったな……」


 …と、ドアの前につっ立ったクラウス・ミューラーはため息混じりにそうつぶやいた。王侯貴族や富豪の子女達の多く通うこのローゼンベルグ王立学院(ロイヤルアカデミー)に、一介の平民である自分が抽選奨学制の恩恵にあずかり入学できた事は半ば奇跡に近い幸運だったと思っていたが……


「まさかな……学生寮の相部屋の相手が、一国の王子サマだなんて……聞いてないよ……」


― ― ― ― ―


『…まずは入学おめでとう、ミューラー君』


 ここに来る前にひと言挨拶をと思って会った担任教師の言葉が思い出される。


『…抽選とはいえ当学園の奨学生は、入学試験において一定以上の成績を収めた者だ。当学園の学生は王侯や富豪ばかりだが、君も平民出だからといって引け目に感じる必要などは全く無い。自信を持って良い』

『…はい、ありがとうございます!』

『あと伝えておく事としては……君の学生寮での相部屋の住人だが、彼に関してひと言注意しておく……』

『…な、何か……?』


 そういう言い方をされると思わず構えてしまう。


『…ヴァンデュボン大公国の第十二公子ミハイル・ド・ヴァンデュボン殿だ。かの国は我が国にとって重要な同盟国でも交易相手国でもないが、万一の事態があって国際問題なんかに発展したりしたらつまらない。くれぐれも失礼や間違いなどは無いようにな』

『……はあ!? …ヴァン…デ……何ですって……?』

『ヴァンデュボン大公国……大陸中央部の辺境の小国だが、聞いた事は無いかね?』

『名前ぐらいは……その国の……つまり王子さまという訳ですか?』

『正確には公子様だが…………ははあ、何か非常に言いたそうな顔をしているね。何でそんなのが学生寮に、だとしてもせめて一人部屋じゃないのか……といった所かな? それに関しては現学園長の方針でもあり、またミハイル君自身の意向でもある。在学中は特に自身の身分などは関係無く、一学生として勉学・交友に取り組みたいとね』

『は、はあ……』


 だからって、何もよりによって平民出の自分を相部屋にする事はないではないか……とクラウスは思った。教師は加えて言った。


『悪いが事前に君の出自、素行、人となり等々について興信所を通じて調査させてもらった……クラウス・ミューラー、平民、十六歳、現在に至るまでに賞罰無し、父は機械技師で両親は健在、六人兄弟の長子、性質は若干内向的なるも日常社交に問題無く、おおむね温和で人当たり良し……まあ、無難な人選と言えるだろう。かえって貴族相手とかでない方が良いんだよ。安心したまえ、ミハイル君も気の良い人柄だ。仲良くやってくれ。まあ、くれぐれも間違いなどは無いようにな……』


― ― ― ― ―


 …そういった訳で彼は、学生寮の割り当てられた部屋の前までやって来たという訳である。


「……ま、ここでブツクサ言ってたってしょうがない。相手が王子サマだからって何も取って食われる訳じゃなし、なるようになれだ……!」


 …という訳で彼は意を決してドアをノックした。


「…誰だい? どうぞ…!」


 中からの返事を聞き、ドアを開けて部屋に足を踏み入れる。


「…失礼します。僕は……………………………」


 ……クラウスは思わず固まってしまった。何故かというと彼の目の前に居たのが女性……いや、女性と見紛うばかりの美青年だったからである。一瞬、間違えて女子寮に来てしまったのかと思ったが、ここまで来る途中ですれ違ってきた学生達が皆男だったのでそれはない。また目の前の麗人が身に着けているのも男物の服だった。


「…ああ、えと…その……」


 こいつが例の王子様か……と彼は戸惑いながらも思った。先生が決して間違いの無いようにと何度も念押ししていたのも頷ける。それぐらいの美男子だったのだ。彼のブロンドの頭髪が窓からの陽光を受けて金色に輝いている様は、いつか見た絵画の天使のようだったし、その(あお)みがかった瞳は一度見たら思わず吸い込まれそうになるような何とも不思議な色合いをしていた。


「…ええと……君、僕に何か用かい?」

「…ああ! し、失礼しました。僕はクラウス・ミューラー、あなたの相部屋相手になります……どうも……」

「相部屋……ああ、そうか!君がね……話は聞いていたよ。僕はミハイル・ド・ヴァンデュボンだ。ミカで良い。よろしく!」


 そう言って彼は片手を差し出して来たので、クラウスもそれを取って言った。


「こちらこそ!俺の事もクロウと呼んでください」


 …それが、二人の出会いであった。

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