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第二話「朱(あか)の詠唱」3

 城下への道を歩きながら、ポケットからたばこを取り出した。口にくわえ、指先で火を灯す。ぼそぼそと先から小さな音がして、淡い煙が風に溶けた。一息吸い込みながら、空を見上げる。白い雲がゆっくり流れていく。ちょっと聞きにくいが、

 ――今のうちに聞いておくか。

「なあ、ルナリス、ベビーマシュマロって、何なんだ?」

 そう聞くと、ルナリスは「ああ、えーっと」と少し抑えたトーンで話し始めた。

「ベビーマシュマロとは、初級魔法の事です。おまじない程度の、小さい子が使える魔法から、普段生活をする上で、わたしたち村人が使う魔法までの事を言います。主に火をつけたり擦り傷を癒したりもします」

 そこまで言うと、今度は少し顔を伏せた。

「そして、さっき呼ばれたベビーマシュマロというのは……学校でのわたしのあだ名なんです。魔法が使えないわたしに、みんながつけた――冗談みたいな」

 ルナリスは、「あはは」と笑って見せたが、寂しそうだった。

 きっとこいつも分かってるんだ。それが“冗談”じゃなくて“皮肉”だって事。

 ルナリスは続けた。

「魔法には、初級・中級・上級・超絶級の四段階があって、それぞれ“ルゥ”、“ラグ”、“ヴァル”、“アルド”と呼ばれています。

 さっきの子が使っていたのは“フレイム・ルゥ”、つまり炎の初級魔法ですね。さっきみたいにいたずらに使うと、火傷したりもします」

「ベビーマシュマロって響きは可愛いけど、使い方によっては危ないんだな」

 ルナリスは俺を見て、静かに頷いた。そして続けた。

「さっきの彼の炎は青かったでしょう? あれは“ベビーマシュマロ”の特徴です。さらに上位に重魔法、別名“ヘビーマジック”というものがありまして、これは全ての魔法が赤く発光し、炎や氷といった“疑念体ぎねんたい”も赤く染まります。朱の詠唱とも言われています。でも、それを扱えるのは“レッドスペル”と呼ばれる者だけで、魔法陣が燃えるように赤く光るからそう呼ばれています。今では、神を封印している方だけがレッドスペルだと言われていまして、普通の魔導士は“ブルースペル”と呼ばれているんです。ちなみに、ブルースペルの魔法陣は光りません」

 そう言われてみると、俺が見た首筋の魔法陣は光っていなかったな。こいつもブルースペルなのだろうか。いや、魔法が使えないから、それ以前の問題か。

「それとヘビーマジックは詠唱が長いため、歌のようだとも言われています。なので、“ヘビーマジックメロディ”なんて呼ばれたりもするんですよ。そしてその重魔法は三つあります。参式、弐式、そして最強魔法の零式です。それぞれ、カオティック・リベリオン、インフェルノ・ヴォイド、ネクロマンス・オブ・ルシフェルです。壱式は何故かありません」

 俺がルナリスの方を見ると、満足そうな顔で見返してきた。

「よく名前覚えてるな、そんなわけわかんない言葉」

「まあ、テストに出ますから」

 そんなのテストに出るのかよ。日本史の歴代将軍みたいなことか? こっちの世界の歴史は、勉強したところで0点が関の山だろうな。

「他にもあるのか? 炎や氷以外の属性は」

 聞くと、ルナリスは楽しそうに俺を見た。

「はい、あります! 炎のフレイム以外には、氷のフロスト、水のアクア、雷のヴォルド、風のエアロ、そして闇と光のノクスとルミナです。これが六大元素魔法です」

「六大元素魔法か。魔法もなんだかややこしいんだな」

「覚えちゃうと簡単です。というか、わたしたちからすると、生活の一部みたいなものですから。そしてさらに――」

「げほげほ! ――まだあるのか」

 もう終わりだと思った魔法講義が続き、思わず煙が逆流した。

「あります。それは、禁忌魔法の、“オメガ・アルカナ”、というものです。教科書では、“存在の理を塗り替える魔法。あらゆる属性を内包し、世界そのものを再構築する。最後の魔法。”とありますが、実のところ、ベビーマシュマロ以外の魔法は、全部実在するかは分かっていません。全て記録上の事なので。言い伝えとして誰かが大げさに書き換えたんじゃないかなって、わたしは思っています。記録では、ヘビーマジックと禁忌魔法は、“かつて神と対峙した悪魔が使用していた”、とされています。神様は魔法で対抗せずに何してたんでしょうね」

「神様なんだから魔法は使わないだろう。魔法って、そもそも禍々しい念で出来たものって、何かで読んだことあるぞ。だから悪魔の魔に、法なんだろ。知らんけど」

 煙を宙に吐いてそう言うと、ルナリスは籠紐を握りしめたまま目を大きくした。

「なるほど、確かにそう言われるとそうですね。神様は悪しき力を、その光だけで祓ったのですね」

 腑に落ちたらしく、歩きながら何度も頷いていた。

 たばこも吸い終わり、携帯灰皿で火をもみ消している時、城下町が見えてきた。かなり歩くのではと身構えていたが、ものの一時間ほどで着いた。



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