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第十三話「リィゼ 後編」1

 見張り場から辺りを見渡すけれど、人っ子一人見当たらなかった。それもそうよね、もう出歩いたりする時間じゃないもの。時刻は八刻もとっくに回り、日付が変わろうとしていた頃よ。こんな時間に出歩いている人は、よっぽどの酔狂かわたしくらいなものだわ。

 ここからの立ち回りは、ミリアさんと何度も確認をしたから、嫌でも頭から離れないわ。各家庭がどのような構成で、どんな風な生活リズムなのかも下調べ済み。無駄のないよう、地平線から光が覗き始めるまでに、城下町の住人全員と王様を殺す。ただそれだけ。簡単よ。

 ミリアさんは、時間的に大丈夫かと懸念を抱いていたけれど、わたしはそれどころか、城内の兵士も全滅させる気でいたの。だってそうじゃないと、お父さまとお母さまの仇が討てないんだもの。誰が仇の対象か分かると、その兵士に“より”復讐の念を込めてとどめをさせるのだけれど、お母さまが殺されてしまった時、兵士は後ろ姿なうえに兜で顔が覆われていたから、見当すらつかないの。

 でもただ単に全員殺すだけじゃ、とても足りない。あの時襲われた恐怖を、村のみんなの恨みを、兵士にとことん味合わせてやりたい。そう思ったの。だからわたし、兵士をやる時だけ、徐々に死ぬようなやり方を選択しようと思うの。そうすれば、少しは村のみんなも浮かばれるでしょ。

 見張り場から梯子を滑るように降り、すぐ目の前の家の戸をそっと開けた。

 最初の家庭は、子供が十を数える女の子の三人家族だったわ。三人並んで寝息を立てる姿を見て、思いがけないことが起きたの。その三人を見てわたし、動けずにいたのよ。三人が寝ている姿を、過去の自分と重ねてしまっていたの。

 これまで、幾人とも分からない数の被検体を使って人間の壊し方を試してきたし、拷問にだって携わってきたわ。その過程で殺してしまうこともあった。もちろん、そんな事故があっても何も思わなかったし、むしろそうなるように手を下す事もあったくらいよ。だから城下の人たちを殺すなんて、なんてことないと思っていたの。

 だけれど、実際に目の当たりにしてみると、手が震えたわ。よくよく考えたら、わたしが今まで傷つけてきた人たちは、その人だけしかその場にいなかったからやれていたのかもしれない。家族が揃っていると、自分がいかに無慈悲な行為をしようとしているのかが、浮き彫りになったわ。

 その時、わたし気付いちゃったのよ。「今から自分がしようとしていることは、“あの時”自分がされた事と同じだ」ってね。

 その震えは、高揚している時とは違う震え。「無垢な人たちを、やれるだろうか」という、カルテナ教団からの任務と、板挟みになってしまっている恐怖の震えだったわ。それまで、一切そんな感情はわたしの中に無かったのに、どうしてそんな大事な時に限って生まれてしまうのかしら。

 それでもやらなくちゃいけない。カルテナ教団の為、ミリアさんからの信頼の為。そう覚悟を決めたわ。

 静かに母親の枕元に移り、首筋にナイフを素早く刺した。次に父親、最後に娘。をやろうとした時、目を擦りながらむくっと体を起こしたの。わたしを父親と勘違いしたみたいで、「ん、お父さん?」と聞いてきたわ。目も開いていなくて、寝ぼけた様子だったわ。

 わたしは咄嗟に娘の背後に回り目を手で覆って、そして「ごめんなさい」と小さく言って、ナイフで首を一刺ししたわ。体がびくっと跳ねると、すぐに脱力して腕の中にずしりと重さが落ちて来た。

 十六のわたしとその子は六つしか変わらなかったけれど、その体は、わたしより一回りも二回りも小さかったわ。ゆっくりと寝かせてナイフを引き抜くと、びゅっと飛び出た血液が、ベッド代わりの布に広がった。――本当に、ごめんなさい。


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