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第十三話「リィゼ 中編」1

 カルテナ教団と聞いて始めに思い浮かんだことは、「慈善団体」だということだったわ。村や町で貧しい家庭があれば、食料はもちろん、衣服や薬なんかも与えてくれるという印象があったの。

 うちは畑もあったし、家具も最低限しかなかったけれど、生活に困ることはなかったわ。だからカルテナ教団の名前こそ知ってはいたのだけれど、一度だってその施しを受けたことはなかった。初めて聞いた時は、そんな団体があるのなら、ずっとそこを頼っていればいいのに、なんて考えた事だってあるわ。けれど、実際にお父さまにそう言った時、お父さまは真剣な目をしてこう言ったわ。

「カルテナ教団はいい人を装って、人さらいをしているんだ。この村でも教団の施しを何度か受けて、その後行方が分からなくなった家庭だってある」

 どこに連れていかれているのかは、誰も知らないんだって。

 それにカルテナ教団は、昔から国と仲が悪いらしいの。学校で習うらしいのだけれど、村には学校が無いから、どれだけ仲が悪いのかはわたしは知らない。でもそういうこともあって、国が管理しているこの村の人間は、カルテナ教団の力は借りてはいけないらしいの。でも国は、村の貧しい人は助けてくれたりはしないの。それならカルテナ教団を頼っても、仕方がない様にも思えるのだけど。

 カルテナ教団の力を借りて、いなくなっている人たちっていうのは、カルテナ教団にさらわれているんじゃなくて、兵士に連れていかれてお城で処刑されている、なんて噂を聞いたことだってあるわ。このことは、お父さまからお話を聞く前に聞いたお話よ。どちらが正しいのかなんて分からないけれど、とにかく、カルテナ教団の施しは受けるなと、小さい頃から言われていたわ。

 でも今、そんなカルテナ教団の一員と思しき人が、目の前に立っている。

 その女性は美しくて、長い黒髪に、燃える家のオレンジ色が移って、光が沈む前の、五刻や六刻前みたいに光っていた。優しく微笑むミリアさんは、血だらけの子供が人の内臓を手に持っている姿を見て、一体どう思っているのだろう。

「すごい事になっちゃったねぇ!」

 わたしの意に介さず、ミリアさんはわたしから目を離して、壊滅した村に目をやったわ。今のわたしの行動を、どうとも思っていないのかしら。困っているような顔をしていたけれど、微笑んでもいたわ。どちらかと言えば、困っている方が、“建前”といった様子だったわ。

 わたしは臓器をそこに捨てて、立ち上がった。そしてミリアさんと同じ様に辺りを見回した。

 家はほとんどが崩れていたり、燃えていたり、その損害は様々だったけれど、無事な家なんて一軒だって見当たらなかったわ。ここに立っていて、そのことが確認できるくらい、村は何もなくなっていたの。

 それにしてもどうしよう。カルテナ教団と名乗るミリアさんに、どうやって接すればいいのか分からない。だって、これまで係わるなと言われて育ってきたものだから、今更そんな人と、普通にお喋りなんて出来っこないもの。

 それでもミリアさんは、色んなことを聞いてくる。

「何が起きたの?」

「村の人は誰も生きていなさそう?」

「寒くない?」

「お腹は空いていない?」

「これからどうしたい?」

 わたしの目の前でしゃがみ込んで、目線を合わせて聞いてくれたわ。そしてやっぱり、どうあっても、ミリアさんの笑顔に裏があるようには思えなかった。だから最後の質問にだけ答えたの。

「どうすればいいか、分かりません」

 わたしがそう言うとミリアさんは微笑んで、わたしの頭にそっと手を添えて、優しく撫でてくれたの。それがとても温かくて、その時お母さまを思い出したわ。もう死んでしまった、お母さまよ。

 またお母さまに抱きしめられたい、ふわふわのベッドの上でおはなしを聞かせてもらいたい、一緒にお料理を作りたい。いくら考えても、もう二度と叶わない願望だと分かっていたけれど、そう思ってしまうの。

 気が付いたら、涙が流れていたわ。泣こうと思って泣いたわけじゃなかったものだから、表情は悲しそうな顔ではなかったと思うわ。無表情だったかしら。

 それからミリアさんは、わたしの手を優しく取って、村の外まで連れて行ってくれたわ。

 外に出るまでに、いくらかも分からないくらいに骸を見たわ。どれもぴくりとも動いていなかった。動いていたとしても、今は手を引かれているのだから、もう“そんな時間はない”と分かっていたけれど、やっぱり探してしまう。動けない生存者を。

 途中でうちの納屋辺りを通ろうとしたので、ミリアさんを止めて、迂回して外へ出たの。だって、お母さまやお父さまの骸は、見たくないもの。それに、まだそれが嘘なんじゃないかって、そう思ってもいたのよ。

 村の外に繋がれていた馬に乗せられたわ。どこに行くのか説明も無かったけれど、もうわたしの居場所がなくなってしまった事は理解していたわ。だから、どこへでも行ってしまえと、そう思ったの。

 走る馬から遠ざかる村を見たけれど、暗がりにオレンジの光が、そこだけぽうっと灯っているのを見ていると、ただただ不気味でならなかった。それを見て、おへその下辺りがむずむずしたわ。


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