第十三話「リィゼ 前編」3
掴んだ兎の首は、思っていたよりずっと細かった。そう思ったのだけれど、どうやらわたしの力が強すぎたようで、兎の首を絞めて、そう感じただけだった。
動物は締める直前まで生かしておかないと鮮度が落ちることと、窒息させた場合は緊張とストレスで肉の味が落ちると、その時お父さまに教わったわ。
締める時も一瞬で、苦しみのないように。そう言われて、何故だか分かるかと問われ、わたしは「そうしないとお肉の味が落ちちゃうからでしょ」と当然のように答えたわ。するとお父さまは少し困った様に笑っていたけれど、その意味を知ったのは、まだずっと大人になってからだったわ。
兎は頭から布を被せて、首に一刺し、ナイフを入れて締める。鶏は首を落とす。いずれも迅速に、的確に。と教わったわ。そうしないと、やはり、肉の質が落ちるのだそう。
お父さまが実演をしてくれて、その後に同じ様にやってみたけれど、兎の首にナイフを入れたのが浅かったのか、お父さまの時は少し暴れてすぐに動かなくなったのに、わたしの時は暴れ続けていたの。
お父さまに言われて、もう一度刺してみた。肉を裂く感触が、刃を通して手に伝わる。全身の毛が、また逆立ちする。早く締めないと、と思う反面、痛みに暴れる兎を押さえつけている事が、“気持ちいい”と感じたわ。
このまま浅く浅く、押さえつけたまま何度も刺すと、この子はどうなるのだろう。そう思ったし、そうしたくもなった。けれどこれは、一般的には“残虐”と言われるもので、大人たちがいい顔をしない事だとも知っていたから、お父さまにどうなるのかも聞かなかったわ。我慢をしたの。
その子を締めたあと、鶏も締めた。こっちは頭をストンと落とすだけで、何もつまらなかったわ。
その時、お父さまがお客様に呼ばれたの。わたしは、もう一羽兎を締めておくように言われたのだけれど、その瞬間に感じた高揚感と言ったらなかったわ。いつも感じる、毛が逆立ちするものとは明らかに違った。もっと、強い昂り。皮膚が泡立つような、全身に、細かな震えがくるような。
実際、両の膝はガクガクと震えていた。早く、やりたい。
兎の檻の前に立った時気付いたのだけれど、その時のわたしの呼吸は、かなり浅く、そして早くなっていたわ。
すでに兎と鶏を締めていたわたしの両手は血だらけで、兎を乱暴に掴むと、白い体はすぐに赤く染まったわ。
兎を台の上に寝かせる。さっきはうつ伏せで下に向けていたけれど、今度は、仰向けで。兎に被せる布はそこに置いたままで、被せない。兎の目をじっと見ながら、喉に刃を立てた。その時思ったわ。このままお腹を開いたら、どんな反応をするのかなって。また、両膝が笑って、もう上手く立っていられないくらいだったわ。
こんなに興奮したことは、今まで一度もなかったわ。心臓は早鐘を打ち、両手も震えていた。
もっと、追い詰めたい。もっと痛い事をしてやりたい。もっともっと、恐怖を与えたい。殺したくない、ずっと、そうしていたい。誰か教えて。どうすれば、この子が恐怖し、痛がるのか。その一番の方法を教えて。わたしが思いつくものでは足りない。もっと、もっとしたいの。
そう感じたわ。
そうやって色んな事に妄想を膨らませていたのだけれど、楽しい時間はあっという間というのは本当だったみたい。まだ兎を締めていないというのに、お父さまが戻ってくる足音がしたの。急いで兎をうつ伏せに寝かせて、布を被せたわ。お父さまに残念な子だと思われたくないから、今度は一度で仕留めて見せた。けれど、経験したこともない高揚感が駆け巡った体は、そんなものじゃあ正常には戻らなかったわ。全然足りなかったの。
締めた兎をお父さまが捌いたのだけれど、お腹を開いた時、内臓が見えて、また妄想が駆け巡ったわ。ああ、生きたまま内臓を取り出して、兎に見せたらどうなるだろうって。
でも、同時にこうも思ったの。「兎に内臓を見せた所で、それが何なのか、理解できないかも」って。だからそれを、人間でやりたいって思ったの。
でもそんな願望、叶いっこない。そう思っていた。あの日まで――。
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