第十二話「歪んだ鑑定」5
俺の問いかけに、ラァラは顔をこちらへ向けた。これまで同様、満面の笑みを浮かべている。結果を答えようと息を吸い込んだ直後、ルガートを一瞥すると、顔から熱を一気に引き、つまらなそうに答えた。
「……まあ、普通ですね」
え、何今の。鑑定中頬杖をついていて、警告音が鳴った瞬間に身を乗り出して声を上げたのは、なかなか見ない結果が出たからじゃあないのか? そしてさっき、結果を言おうとした時、ルガートを見て、その答えを変えただろ。何故隠そうとする。と言うかなにより――
――隠し方が下手くそっ。
ラァラは急いでこの場を離れ、ルナリスの元へ駆けて行った。
それにしても、何を隠しているのだろうか。ルナリスの中に魔王が封印されている事か? もしそうなら、隠してもらった方が、俺としても都合はいい。しかし、ラァラがその事を隠蔽する必要は何なのだろうか。
ルナリスの力を測れと、国王に言われていたんじゃあないのか。虚偽の報告をした場合、欺瞞の罪に問われるのではないのか。
いや、もしかすると、俺たちにだけ正しい結果を黙っているつもりなのかもしれない。ラァラも国王の命に背くことは、さすがにないだろう。そう考えるのが正しい。
ルナリスの中にいる、強大な存在が検知されたのかを聞きたいが、そのまま聞くことも出来ない。それなら違う方向から質問が出来ないかと考えていると、ルガートがラァラに声をかけた。
「おい、本当に普通なのか? 何か、特筆すべき力は秘めていたりしていないか?」
さあラァラ、これにはどう答える? 俺としては、「普通の魔力」で終わってほしいところではあったが、こいつが鑑定結果を改ざんしようとしている事も腑に落ちなかった。真実については、ルガートはもちろん、ガルドやトウカにも知られたくはないが、それよりも、今日会ったばかりのラァラが、それを隠蔽しようとしているところが気色悪かった。
そこに、一人のじいさんが地下室に入ってきた。
「これはこれは、ルガート殿も来ておられたか。ご無沙汰じゃのう」
じいさんは、黄金に輝く祭司の着物に身を包んでおり、杖をついてゆっくりとルガートへ近づいた。ルガートも頭を下げた。
「お久しぶりです、マルディス猊下。お変わりないようで」
双方敬ってはいるようだが、そこに、何か違和感を覚えた。お互い、どこか牽制しあっているように見えた。じっとその二人を見ていると、ラァラが割って入り、俺たちの紹介をしてくれた。
「猊下! この者どもを紹介いたします。ルナリス率いる派遣隊の面々でございます」
そこまで聞くと、マルディスは手で制した。
「よい、話は聞いておる。そのルナリスとやらを鑑定していると聞いたから、わしはここへ来たんじゃ」
マルディスが笑いながら言うと、今度はそのじいさんを紹介してくれた。
「こちらがマルディス猊下です。私が所属している組織、カルテナ教団の総帥です」
俺たちは頭を下げた。マルディスは「よいよい、辛気臭いのは嫌いじゃ」と、頭を上げるよう促した。そして言葉を継いだ。
「して、結果はどうじゃった」
マルディスが聞くと、ラァラは相変わらずの結果を口にした。
「ええ、まあ普通の魔力といったところですが、コアレスポンスが点灯しました。魔力が一時的に高まると、朱の詠唱も唱えることは可能かと思われます」
マルディスは口角を上げ、頷いた。
なるほど、あの赤いランプはコアレスポンスというのか。それが点灯することで、魔力が爆発することがあるかもしれないという、内なる魔力を検知していたのか。
ルガートもその結果を聞き、魔法を使い、すぐに王様へ連絡を入れた。結果報告は、ラァラが直接王様へ伝えていた。
派遣隊としての結果は、ルナリスの魔力も認められ、旅の続行が許可された。
結局ラァラは、俺たちへはもちろん、ルガートにもマルディスにも、ルナリスの内なる脅威については黙っていた。しかし、本当に魔王の存在を検知出来ていなかった可能性もある。魔王がこちらの様子を鑑み、気配を消していたのかもしれない。
それならばいいが……。
さて、ここでの用事も終わったことだ。宿へ行くとしよう。宿で少し休んで、夜にはみんなで酒を飲みに行こう。久しぶりの酒、本当に楽しみだ。
俺たちは憔悴しきったルナリスを連れ、ラァラ宅を後にした。
――その夜。
「――うむ、私じゃ。ラァラか。して、首尾はどうじゃ。ああ、そうか。やはり、秘めておったか。うむ、うむ。しかし、強大な力であれば万歳、悪魔であれば万々歳と思ってはおったが、まさかあの小さな体に魔王を封印しておったとは、予想以上の収穫じゃったのぉ。神はやはり、我々カルテナ教団のことを見て下さっておる。よいか、手段は問わん、ああ、ルナリスを殺しても構わん。如何にしても、魔王の力を我々のものにするのじゃ。ギリノアの城下の民を、一晩で一人残らず暗殺した、元アサシンのお主なら簡単じゃろうて。まあ、そうじゃな。獣哭の森ではルナリスの内なる力は見れなんだが、それでもじゅうぶんな威力の魔法は見れたからのぉ。それにしてもよいのか、あっさりと国を裏切るような真似をして。うむ、ふぉふぉふぉ、そうかそうか。ああ、それでは、引き続きルナリスの監視を頼んだぞ、ラァラ。いや、ミリアよ」
第十二話「歪んだ鑑定」 終わり




