第十一話「夜明け」4
「なるほど。それは、やはりルガートが下手人なのか?」
トウカは小さく頷いた。
「まだ確定したわけではないが、あいつには、召喚のノウハウも、我々の旅を阻む動機もあるからな。今後も同じ目に遭わされる危険はある。然るべき対処が必要だろう。レン、お前も、気にかけておいてくれ。私たちの会話も、常時筒抜けの可能性がある」
「ああ、後で皆に共有しよう」
俺が頷くと、トウカも頷いた。そして改めて、静かに口を開いた。
「なあレン、もう一度言うが、“死臭が全くしなかった”んだ。これがどういう意味か、分かるか?」
そう言われたが、意味が分からず、俺は小首を傾げた。するとトウカは微笑んで見せた。
「いや、いい。私の考えすぎだ。さ、ルナリスの所に行ってやれ」
そう言われ俺は力強く頷き、すぐにガルドとルナリスの元へ行き声を掛けた。
「おっさん、生きてるか?」
ガルドは苦笑し、親指を立てて見せた。腕を上げるのもやっとというようだった。
「ルナリスもよくやってくれた」
ルナリスはステッキを抱いて、木にもたれかかっている。彼女も疲労困憊といった具合ではあったが、それでも微笑んでくれた。
みんな、本当によくやってくれた。ガルドがいなければ、トウカがいなければ、そして何より、怪物を弱体化させるための要となったルナリス、彼女がいなければ、きっとやられていた。最高のパーティだ。
そして、犠牲となってしまったミリア。お前も、必要不可欠な仲間だった。お前のお陰で、誰かが死なずに済んだのかもしれない。ありがとな。
ミリアの遺体を回収して埋めたいところではあったが、それを提案すると、ガルドとトウカ、双方に止められた。闇には何が潜んでいるか分からず、松明代わりに燃えた木を持っていったとしても油断すれば死ぬ。さらに、死臭を嗅ぎつけた魔獣たちによって、遺体は既に巣へ持ち去られている可能性が高いとの判断だった。
ミリアの遺体の確認、回収は、翌朝へ持ち越しとなった。
ここで夜を明かすのは少々不安ではあったが、暗闇を移動するより、焚火のそばが安全だろうということで、このまま野営をすることにした。いくらか備えていた食料を馬車から取り出し、それを皆で食べた。
夜の番は交代で行い、俺たちは無事、朝を迎えた。
ミリアがやられたであろう場所は、どす黒く大きな染みが出来ていた。きっと血の跡だろう。そこから茂みの中へと、何かを引きずった跡が続いていた。何を引きずっていったのかは、言わずもがなである。
「行こう、ミリアの為にも」
俺が言うと、皆頷いた。
馬車は、応急的に車輪をはめ込みはしたが、かなりぐらついていて速度を出す事は出来なそうだった。しかし、もう急ぐ必要はない。明るい獣哭の森は、不穏さは一切ない、いたって普通の森だった。
森を抜けると、すぐにノクティアが見えてきた。丘なりの地形を利用した、大きな町だった。
空は、雲一つない快晴。
直視出来ないくらいの太陽が、あいつみたいに眩しかった。
――なあミリア、お前は酒飲めるのか? 今夜は、とことん付き合ってもらうぞ。
第十一話「夜明け」 終わり




