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第十一話「夜明け」3

「っ!?」

 聞き覚えのある声だった。俺は咄嗟に剣を魔法陣の中央に突き立てた。

 そして頭上の闇を見る。そこから現れたのは、トウカだった。刀の鞘を両手で握りしめ、狂気に満ちた目で俺が突き立てる剣を見ていた。

 トウカは叫んだ。

「タイミング――合わせろっ!」

 持っていた鞘の先端で、落ちる威力と自身の叩きつける力で、剣の柄頭を思い切り打ち付けた。

 俺は言われた通り、鞘が柄頭を叩くと同時に、剣に力を込めた。すると、魔法陣の表面にひびが入った。剣の先端は魔法陣にめり込みつつあるが、何かの強い力で押し返そうとする。

 ここでやれなかったら、今度こそ本当の終わりだ。俺は渾身の力で剣を突き刺した。

「おおおぉぉぉぉぉ!」

 トウカも鞘から手を放し、俺の手ごと剣を握りしめた。そして共に力を込める。

「砕けろぉぉ!!」

 トウカの声が闇に響く。

 その時、表面のひびが大きくなり、剣がわずかに押し下がった。と思った瞬間、ガラスの様な結界は一気に割れ、剣は根元まで飲みこまれた。

 魔法陣の光はゆっくりと闇に溶け、巨体は音もなく崩れ落ちた。木の根は枯れ枝のように砕け、瞬く間に塵となって風に流された。


 森は、今までの激闘が嘘の様に、静けさを取り戻した。虫の音も、焚火の音もうるさいくらいに。

 俺は元々、ルナリスから全快で回復してもらっていた事もあり、立ち上がるくらいの気力は残っていたが、トウカは大の字になって空を仰ぎ、息を切らしていた。

 こいつがあの時、落ちて来てくれなかったらと思うと、背筋が冷たくなる。俺はトウカに声をかけた。

「やったな、俺たち」

 トウカは虚ろな目をこちらへ向け、少しだけ口角を上げた。

「レンこそ、よく立ち向かおうと思ったな」

 首を動かす事もままならないのか、目だけを向けたまま言った。

「まあな、どうしてもあいつはやらないと、犠牲になったミリアもそうだけど、全員ボロボロにされたのが悔しくてな。絶対に葬りたいと思ったんだ」

 俺がそう言うと、「その話なんだが、耳を貸してくれ」と、トウカは人差し指を小さく動かして、顔を近づけるよう促した。俺がトウカの口元に耳をやると、虫の音ほどの声で喋り始めた。

「あの召喚された怪物はもちろんだが、もしかしたら、私たちを襲ったデスロートから、全て罠だったかもしれない」

「え、それってどういう――」

 トウカは切らした息を整えながら、一つずつ話した。

「初めに違和感に気付いたのは、デスロートを斬った時だ。死臭がまるでしなかった。私はフェリシアと人間のハーフだが、嗅覚はしっかりと獣人のそれを引き継いだのか、半ばその辺のフェリシアよりも、臭いには敏感なんだ」

 フェリシア……初めて聞く単語だったが、それが猫の獣人だとすぐに分かった。トウカは続ける。

「動物や人は、死ぬとすぐに死臭を放ち始める。通常の嗅覚だと、それが腐敗し始めて初めて気付くものだが、私はすぐに分かる。そして、ガルドとレンと私で、相当な数を斬ったにも関わらず、一切死臭はしなかった」

 そう言われ、トウカがデスロートを斬った時、首を傾げていた光景を思い出した。トウカはひと息つき、言葉を継いだ。

「そうなると、死臭を放たなかったデスロートを仕向けたのも、怪物を召喚したやつの仕業だと、そう紐づけるのが自然だ」


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