第十一話「夜明け」2
トウカは怪物を睨んだまま姿勢を低く構え、「それから?」と俺の指示を促した。
「それから、その攻撃を躱した後、ガルドには、地面に叩きつけられたヤツの手を、剣で刺して、地面にはりつけておいて欲しい」
「いいだろう」
ガルドは低く答え、剣を構え直した。
「そして恐らくこの時、やつの体は前方につんのめってる状態のはずだ。そこでトウカ、お前は、ガルドがはりつけている腕を駆け上り、背中の魔法陣を討って欲しい。出来るか?」
「やるしかないのだろう」
トウカの尻尾はだらりと下がっているが、先端だけピクピクと細かく動いていた。
「くるぞ!」
不意に、ガルドの声が響いた。頭上を見上げると、怪物の手が、少しずつ動き、若干速度を増したところで、俺は合図を送った。
「今だ、下がれ!」
その合図で、三人同時に後方へ飛んだ。案の定、怪物の攻撃はこちらを追ってきた。その速度は劇的に早くなったが、全員散開し、なんとか避けた。俺は倒れ込むように必死に躱したが、トウカとガルドはさすがである、しっかりと立っていた。トウカは腕を駆け上る為の姿勢を取り、ガルドは剣を手の甲に突き立てた。
ガルドの剣は、張り巡らされた木の根を切り裂き、剛腕に押し込まれるまま、手のひらを貫いた。刃は抵抗を失ったように沈み込み、鍔元まで一気に呑み込まれた。
瞬時にトウカが腕を駆け上った。一秒たらずで肩に到達すると、背中に向かって跳んだ。
――よし、やれる!
そう思った直後だった。失った胸部の切れ口から、大きな根が蠢いたかと思うと、それは鞭の様にしなり、トウカを上空へ弾き飛ばした。
飛ばされたトウカは気を失ってしまったのか、受け身を取ることもなく、四肢を投げ出したまま宙を舞った。その姿は、糸を切られた人形のようで、やがて上空の闇へと消えていった。彼女に握られていた刀だけが、乾いた音を立てて、地面に落ちた。
それに気を取られたガルドも、その一瞬の虚を突かれ、手の甲から伸びた根に飛ばされた。ガルドは怪物を睨みこそしていたものの、倒れたまま、うめき声を上げていた。ルナリスもまた、涙を流し、その目の光を失っていた。
――嘘、だろ?
これで駄目なら、全滅してしまう。このあとは、もう策はない。みんな、死ぬ。ほんとうに。うそだよな。
明るく朗らかで、いつも場を和ませてくれたミリア。体はでかいが、心は優しいガルド。常に冷淡な表情をしてはいるが、一瞬俺に微笑んでくれたトウカ。そして、魔法が使えない事を諦め、それを受け入れてはいたが、夢ですごい魔法が使えたとはしゃいでいたルナリス。
みんな……死んでしまう。
自然に目から涙が伝った。
やるしかねえ……俺が。
行くしかねえだろうがよ!
勇気を振り絞って、剣を握り直す。そして、怪物の腕を駆け上る。
「クソ野郎がぁーーーーー!」
叫ぶと、全身に血が巡った。体は熱くなり、憎しみも増大していく。こいつは、絶対に許さない!
一気に肩まで来ると、もう目の前に大きな魔法陣が見えた。青く揺らめく光は、不気味に闇と調和している。背中はほぼ真上を向いていた為、駆ける足を止めないまま魔法陣の中央部まで来た。
憎しみの感情そのままに、剣を思い切り魔法陣に――
「お前だけは、絶対に許さない! 死ねぇぇぇぇぇ!」
――突き刺し、
――ガキンッ
「えっ」
魔法陣の中央に剣を突き当てた瞬間、硬いガラスの様なものに弾かれた。
――結界か!?
その時本当に、俺の中の何もかもが、終わった。
諦めるしかない。ここで俺たちは、ゲームオーバーなんだ。
そう思った時、闇に覆われる上空から声がした。
「そのまま突き立ててろーーーー!」
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