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第十一話「夜明け」1

 巨大な怪物を見上げるトウカの頬に、一筋の雫が見えた。ルナリスの回復後、すぐ駆けて来てくれたのだろうが、やはり全快ではなかったらしい。肩を上下に動かし、息を切らしていた。一瞬でこちらへ移動するのに、回復した体力の相当分を使ったようだ。

 ガルドも起き上がり、こちらを見ていた。笑って、親指を立ててくれている。ルナリスはステッキを胸に抱いて、その場にペタンと座り込んでいた。疲れ切った表情ではあったが、優しく微笑んでいた。

「サンキュー、トウカ。助かった」

 俺が立ち上がりながら言うと、トウカは堅い表情を崩さず返した。

「やつの頭部は、ルナリスの魔法でやったのだな。薄くなった意識の中、音だけ聞いていた。猫は耳がいいのでな」

 そう言ってこちらに視線をやると、耳だけを動かして見せた。そして続ける。

「今度はこちらの番だ。やってやる」

 トウカの猫目が縦に伸びる。憎悪にゆがませる頬に、八重歯が光った。右手を刀に添え、今にも跳んでいきそうなトウカを急いで止めた。

「おいおい待て、闇雲に行くと、あいつの速い攻撃にまたやられるぞ」

 そう言うと、トウカは鋭い眼光で俺を刺した。

「あれは油断していただけだ、二度目はない!」

 ムキになってくるあたり、こいつもまだ子供だなと感じた。いくら腕が立つとはいえ、若いやつにすごまれても一切恐怖心は湧かない。これも教師経験で培ったものなのだろうか。そう感じながら、トウカを諭す。

「ああ、お前の腕は分かっている。次だって、お前が同じ攻撃を食らうなんて思っていない。しかし、どんなに可能性があったとしても、そこに“絶対”なんてものはない。過信や慢心こそ、失敗を招く。“出来るやつ”ってのは、常に失敗した後の手を考えてるもんだぜ」

 俺がトウカに微笑んで見せると、トウカは小首を傾げた。いまいち伝わっていないようだが、目の前の怪物がゆっくりと左腕を上げ始めたいま、悠長に説明している暇など無かった。

「おっさん! こっちに来てくれ!」

 俺は急いでガルドを呼びつけた。そして小声でトウカに語り掛ける。

「真っすぐ一人で突進するのもいいが、仲間がいるんだ、一緒に戦わないとな」

 俺は長く伸びたままのトウカの瞳に、ウインクをして見せた。するとトウカは目を丸く見開き、尻尾をビンと立てた。直後、足元からつむじにかけて、全身を小刻みに震えさせた。まるで、汚いモノでも見るような目で俺を見た。見下すというより、狼狽じみた表情だった。

「や、やめろ! 鳥肌が立った!」

 トウカは怪物に視線を戻しながら叫んだ。

 するとそこに、ガルドが駆けてきた。

「猫も鳥肌が立つんだな」

 ガルドは口角を上げ、大きな剣を怪物に向けて構えた。焚火の光が、怪物を不気味に照らす。高く振り上げられた手は、半ば闇に飲みこまれていた。

 俺とトウカとガルドが並ぶ。ルナリスの方を見ると、二人の回復でほとんどの体力を使ったのだろう。立つことすらままならないでいた。ここは、俺たち三人でやるしかない。

 俺は、考えていた策を二人に話した。

「もういちいち詳しく話してる暇はない。俺の言う通りにしてくれ!」

「いいだろう。教えてくれ」

 ガルドが言う。俺は早口に、指示を出した。

「まず、やつの背中を、極力上に向けたい。その為に、次の一撃は、ここから数歩下がった位置で受ける。咄嗟に躱せばこの場にヤツの手は落ちるだけだが、早めに後退すれば、少しはこちらを追従しようとするだろう。俺の合図で下がってくれ」


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