表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/91

第十話「折れない刃」2

 咄嗟に前方に飛び込み、怪物の足元に転がった。その“足”を間近で捉えた瞬間、全身に鳥肌が立った。地面に這う根は無数にうねり、絡まりながら蠢いていた。そいつらの動きは根と呼ぶよりも、ミミズと形容した方がしっくりきた。

 先ほどの経験もあって、次の攻撃に身を備え見上げたが、今しがた振り下ろされた右手は地面にめり込み、左腕はだらりと垂れているだけだった。めり込んだ右手も動かず、一向に次の攻撃に転じようとはしなかった。

 こいつもしかして、動きの速度だけではなく、動作そのものも遅くなっているのか。それなら恐らく、一撃の威力も落ちているはずだ。全快にはならないにしても、初手をガードしたガルドになら受け止められるだろう。

 これならやれるっ、俺たちにも!

 足元から伝わる振動で、地面にめり込んだ手が上がろうとしている事が分かった。ゆっくりと、土をぼとぼとと落としながら上がっていく。

 悠長にしていると、次の攻撃が来る。ガルドとトウカの回復はまだか?

 確認をするが、まだ二人とも倒れており、ルナリスは双方に手をかざして回復をしているところだった。

 この調子ならまだ、あと二、三撃は耐えないといけないかもしれない。だが、集中していればきっと躱せる。今のこいつなら、大丈夫。

 今度は、俺が足元にいたこともあってか、怪物は片足を上げた。蠢く根たちが地面から抜け出す様子が気持ち悪く、背筋に寒気が走った。俺は急いで、足が届かないであろう場所まで走った。

 よし、ここならだいじょう――

 そう思った瞬間、頭上に乾いた木々の軋む音が聞こえた。見上げると、手のひらが落ちてきていた。体勢を気にする余裕もなく、思い切り地面を蹴って後方に跳んだ。受け身など取れるはずもなく、頬が地面に叩きつけられた。直後に揺れる地面。またしても、やつの手のひらは、地にめり込んでいた。

 危なかった。通常の速度だったなら、間違いなく潰されていた。

 踏むと見せかけて、手のひらで攻撃する算段だったのか。この怪物……しっかりと考えて行動してやがる。のろまになったからって、舐めてかかるとやられる。

 ルナリスは、相変わらず魔法をかけ続けていた。――おいおい、一体いつまでかかるんだ。持久戦になると、こちらが不利になることは明白だ。一刻も早く、立ち上がってくれ。


 その後も二発、三発、と怪物の攻撃をやり過ごしていたが、いよいよ六発目が横から薙いで来た時だった。身を翻した瞬間、ふくらはぎに激痛が走った。これまで瞬発力でのみ躱し続けていた疲労が、こんなところで出てしまった。

 激痛で思わずその場に倒れ込んだ。防ぐ姿勢を取る間もなく、もう、迫りくる手のひらを見つめる事しか出来なかった。

 ――その時、トウカの背中が目の前に現れた。現れたというより、残像の様に揺らめいた姿が、そこに出現した。その姿は、一瞬だけ右手が動いたかと思うと、一閃、長い髪をなびかせ、低く構えたまま静止した。まるで今まで、何も無かったかのような静けさが訪れた。

 直後、迫っていた手は俺を弾き飛ばすことなく、目の前で散った。小間切れになって、緑の樹液が飛び散る中で、トウカが刀を“カチン”と鞘に納めた。

 ほんの一瞬の間に、一体何度斬りつけたのだろう。

 トウカは俺を一瞥すると、そびえる巨体に視線をやった。その目は冷淡で、本当につまらないおもちゃでも見る様な目をしていた。そして瞳を縦に細くして言った。

「反撃開始だ」



 第十話「折れない刃」 終わり


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ