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第九話「絶望の足音」4

 まったく……召喚だと? 一体だれがそんな事を……。

「召喚は誰でも出来るというものではない。限られた、優秀な魔導士」

 トウカは怪物への警戒を解かないまま、教えてくれた。

「優秀な魔導士って……誰か、心当たりあるのか?」

 トウカの背中に問うと、亜麻色の髪が縦に揺れた。そして小さくこぼした。

「城に仕える人間なら、超級魔法を使える者……」

 そう言われ、咄嗟に中庭を超級魔法で焼き払ったミリアの事を思い出したが、あいつは既に……。そうよぎったと同時に、ミリアの超級魔法を、いとも簡単にバリアで凌いでいた人間を思い出した。

「……もしかして、ルガートか?」

 そう言うと、またも亜麻色の髪が縦に揺れた。

「私たちが、先に魔王討伐を完遂することを阻んでいると、そう思われる」

 確かにあいつは、俺やルナリスを良くは思ってはいなかった。しかし、ルナリスのヘビーマジックについては、どちらかというと擁護してくれているようにも思えた。――いや逆に、そうなると、ヘビーマジックを使えるという事が、任務を成し遂げられる可能性を上げるのか。

 学者どもに否定されてムキになってはいたが、トウカの言うように、今となっては、ただただ俺たちが邪魔なのだろう。

 そういう事かよクソ野郎が。

 そんなやつが召喚した怪物に殺されるなんて、はらわたが煮えくり返りそうだ。しかし、どう転んでも勝てそうにない巨人を前に、一体何が出来ると言うのか。

 怪物は立ち上がるとなお、その巨大な影に重圧を増した。ガルドにとどめをする為、一歩、また一歩と、地を揺らしこちらに近づく。トウカは身を構え、鋭く巨影を睨んだ。

 そうだ、まだトウカがいる。ガルドはやられてしまったが、俊敏なこいつなら、もしかしたら討てるかもしれない。やつの腕のスピードは、巨大な割にすさまじい速度ではあったが、彼女も見ていたはずだ。トウカなら、きっと躱せる。

 トウカは自分を狙わせるため、忍ばせていた苦無を頭部に投げつけた。カツン、と額に刺さると、一瞬怪物の動きが止まった。そしてゆっくりと、トウカの方へ顔を向けた。

「お前の相手は私だ、来い、木偶野郎」

 トウカはガルドから離れ、改めて構えた。居合の構えだ。

 巨大な影は、ゆっくりと大きく腕を振り上げると、トウカ目掛けて縦に振り下ろした。

 大きな地鳴りと共に、やつの手のひらは地に叩きつけられた。トウカはあっけなく潰されてしまったのかと一瞬戸惑ったが、頭上から声が聞こえた。

「魔法陣は――背中にあるのだな?」

 すぐに上空に目をやると、トウカは怪物の頭上よりも、遥か高く跳んでいた。脚を天に頭を地に、逆さの姿勢のまま、鋭い眼光で怪物の背中に狙いを定める。と、その時、壮絶な速度で、“何か”がトウカの体を横殴りに弾き飛ばした。トウカは潰れたような声を漏らし、抵抗する間もなく木々へと叩きつけられ、地に落ちた。

「ト、トウカ!」

 急いで駆け寄ったが、既に意識は無かった。こちらも息はあるようだったが、ほとんどしているのか分からない程に弱かった。ガルドもそうだが、トウカも危うい。しかし残ったのは俺と、未だに気を失っているルナリスだけだ。もう……おしまいだ。

 いや――まだやれる。俺は倒せないが、ルナリスの魔法なら――もしくは、アザルの力なら。

 どうすればいい? 考えろ。とにかく攻撃を躱しまくって、その間にルナリスが起きて、魔法で攻撃。やつを魔法陣ごと焼き払う。このシナリオが現実的だが、果たして俺にあいつの攻撃を躱せるだろうか。ガルドを薙いだ一撃や、トウカへ振り下ろされた初撃なら俺にも目視は出来た。反応できるかは分からないが、あの攻撃なら現実味がある。しかし、トウカを叩き落とした“あの攻撃”は、まったく見えなかった。あれをやられちゃあ、一瞬で終わる。

 歯を食いしばって、剣を構え、切っ先を怪物に向けた。

 しかしもう一つのシナリオ、“ルナリスが起きなかったら?”という最悪のパターン。この場合、俺がやるしかなくなるが、そもそも背中の魔法陣に、俺の攻撃は届くだろうか。よほど低姿勢になってくれなきゃあ無理だが……。いずれにせよ、起きる確率の方が低い気がする。最悪のシナリオの方で、腹をくくるか。



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