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第九話「絶望の足音」3

 ガルドは驚愕し、構えていた剣を、力なく地に付けた。百戦錬磨と思われたおっさんが、狼狽しているようにも伺えた。

 それも、無理はないのかもしれない。

 ――そいつは、森そのものが立ち上がったみたいだった。木の根と幹を無理やりねじり合わせて作った巨人。腐りかけた木肌が幾重にも折り重なり、ところどころ空洞になった穴からは、夜気が呻くように漏れ出していた。

 頭部らしき場所には、人間の面影をかすかに思わせる奇妙な仮面が埋め込まれていた。だが、その仮面には目も口も動かす意思などなく、ただ“覗いている”だけの、乾ききった無表情が張り付いていた。

 腕は太い大枝を束ねたように歪み、振り上げるたび、その隙間から無数の枯れ葉がざらついた音を立てて落ちた。

 まるで、歩くだけで森がひとつずつ死んでいくような、そんな気配をまとっていた。

 息をしているのかも分からない。ただ、胸にあたる部分が微かに波打つたび、幹の奥で何かが蠢くような、生き物じみた“湿った音”だけが確かに響いた。

 森の暗闇のせいか、それともそいつ自身のせいか――輪郭は結ばず、視界の端でゆっくり滲んでは、そこに立つたびに存在を主張してくる。

 ひと言で言えば、“現実感がない”。この世の理から外れた、そんな危うい巨影だった。

 跪いてこちらを伺っているようだが、それでも三階建てか四階建てか……いや、もっとでかいか? そのくらいの大きさを誇っていた。

「これって……森そのものが、魔獣化したみたい」

 トウカがぼそりと呟いた。刀に手を添え、いつでも抜けるよう構えてはいるが、その面持ちはやはり、気圧されている様に見えた。

「も、森そのものが魔獣化って……そんなことあんのかよ」

 俺もトウカやガルドと同様、絶望的な状況に、血の気が引くのを感じていた。さらにその時、見たくないものが目に入った。その怪物の背中辺りに、淡い青い光が見えたのだ。アザルがルナリスの表に出ている時に揺らめく、魔法陣の光みたいな、淡い光。

「こ、こいつ、もしかしたら背中に魔法陣があるかもしれない! 背中から淡い光が見える!」

「なんだと!? 青い魔法陣ということは、こいつ――」

 ガルドがそう言うと、突如として怪物は襲ってきた。振り下ろす巨大な腕を、咄嗟に剣で受け止めたが、ガルドは堪らず片膝をついた。怪物は剣に受け止められた腕をもう一度振り上げると、今度はガルド目掛けて、横殴りに薙いだ。巨大な腕は周りの大木をも根こそぎえぐり、その木々もろとも、ガルドの体を軽々と殴り払った。吹き飛ばされたガルドは、大木に叩きつけられ、その場に崩れた。

「おっさん! 大丈夫か!」

 俺はすかさずガルドに駆け寄り、トウカもフォローで来てくれた。体を起こしてやると、ガルドは「ぐはぁっ」と、血を吐いた。

 お、おいおいまじかよ……。ここでさらにもう一人、仲間を失ってしまうのか? ――いや、“一人で済む”のだろうか。もしかしたら……トウカも、そして俺とルナリスも、ここでやられてしまうのか。

「……つられて、いる」

 巨大な怪物に戦慄していると、おっさんの声が微かに聞こえた。

「え、なんだって?」

「あいつは、何者かに、召喚され、操られて……いる。――はぁ、はぁ。青い、魔法陣なら、間違い、ない。いいか、魔法陣を、穿つのだ」

 息も絶え絶えにそう言うと、さらに血を吐き、全身の力を抜いて倒れ込んでしまった。息はある。気を失っただけらしいが、全身を強く打っている。このまま放っておくと死んでしまうかもしれない。この窮地を一刻も早く何とかしないと。


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