第九話「絶望の足音」2
ガルドとトウカはズバズバと捌いている。腹を斬り、頭部を落とし、時には真っ二つにも裂いた。
二人の素早い剣捌きに見とれていると、不意に目の前にデスロートが飛びかかってきた。瞬間的に、ミリアの食いちぎられた腕がよぎった。――ああ、俺も死ぬんだ。
――って、こんな所で死ねるかよぉ!
死んで当然なら、もう思い切りやってやろうと、咄嗟に全身に力が湧いた。バットを振る要領で、力任せに剣を振り上げた。その切っ先は、見事にデスロートの顎に突き刺さり、そのまま頭部を裂いた。
や、やった! 俺にも、やれる!
その後も次から次に暗闇から現れるデスロートたちだったが、とうとう残りは三体となった。
辺り一面血の海で、ガルドとトウカ、それに俺はもちろん、そこに倒れていたルナリスまでも返り血を浴びていた。
俺たちは皆息を切らしていたが、三体をやるくらいどうってことない。これなら、生きて出られるぞ。
そう思った時、三体のデスロートはピクリと何かを察知した様に、三体同時に上空を見上げた。辺りの匂いを伺う様に鼻をひくつかせる。しばらくその動作を続けていたが、跳ねるように暗闇に消えていった。
俺たちは皆、構えを解いてひと息ついた。
「とりあえず、何とかなったな。レン、やるじゃないか」
ガルドは笑いながら、俺の肩を叩いた。
「いやまあ、必死だったから何がなにやら」
俺は言いながらその場に尻もちをつくように、どっかと座った。
全身が疲れているのがよく分かる。咄嗟に動いていたのと、自身を昂らせていた反動が来ているのだろう。
そんな俺を見て、ガルドはまた笑い、トウカも優しく微笑んだ。今度はいたずらな瞳はしていなかった。
「しかし、ミリアを失ってしまった……」
今は掘り下げるべきではなかったかもしれないが、そんな言葉が口をついた。するとガルドは俺の肩に手を添えて、優しく諭してくれた。
「ミリアを失ってしまった事は残念だ。しかし、俺たち国に仕える者というのは、“そういう覚悟”がある者として国に仕えている。即ち、“命を懸けてでも国に貢献する”という意思は、すべからく持っている。ミリアも例外ではない。その瞬間は見れなかったが、きっと、自分を犠牲にしなければ、俺たち誰かがやられていた状況だったのだろう。ミリアに助けてもらった命、大切にしよう」
胸が苦しくなるが、ガルドの言う通りかもしれない。立ち上がって前を見て、また歩んで行かなければならない。それがきっと、俺たちを助けてくれた、ミリアの為にもなるはずだ。
「ああ、そうだな」
俺はガルドを見て、力なくも微笑んで見せた。
その時、今まで聞こえていなかった地鳴りが、森を震わせた。空気の震えるその音に、木々は揺れ、鳥たちは騒いだ。
和やかな雰囲気から一転、ガルドとトウカは緊張を走らせた。
何かが確かに動いている地面の振動、そして遠くで鳴る木々のざわめきが、こちらへ近づいていた。良くない事が起ころうとしていることは、火を見るよりも明らかだった。
「な、何なんだ一体」
俺が言うと、ガルドは険しい面持ちで答えた。
「分からんが、デスロートなんて目じゃないくらい、でかい“何か”ってことは確かだ」
徐々に近づく木々のざわめきはすぐそこに迫り、いよいよその影は、焚火の灯りの届く所までに及んだ。
「な、何だ……こいつは」
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