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第八話「闇に飲まれた笑顔」2

「デスロートか。こいつらは群れで行動する。他のやつらもデスロートだろう。いいかレン、落ち着いて首か腹を切るんだ、お前ならきっとやれる」

 ガルドはこちらを見ずにそう言うと、改めて剣を握り直した。

 きっとやれる、なんて言われても、それはいくつもの死線を乗り越えてきたからこそ簡単に言えることであって、剣を始めて持つ俺にとっては、野犬すら切るのも難しい。こんなに魔改造されたみたいな犬、本当にやれるだろうか。

「そっち、来る!」

 トウカはミリアの方へ向き直り叫んだ。先ほどのデスロートよりも一回り大きい個体が、ミリアに飛びかかっていた。ミリアは咄嗟に呪文を唱えた。

「ヴォルト・ラグ!」

 凄まじい光と雷音が天から落ち、デスロートを貫いた。ハイエナ野郎を一瞬にして黒焦げにしてしまった。さすが、お披露目会で中庭を焼き払っただけはある。普段はふざけた女だが、腕は確かだ。信用できる。

 と、そう思い、ミリアから目を離した瞬間だった。

「きゃあぁぁぁぁ!」

 先ほど呪文を唱えた声の主、ミリアの悲鳴が耳をつんざいた。咄嗟にそちらを見ると、既に他のデスロート二匹に、腕と足を噛まれ、暗闇に引きずられていってしまった。

「ミリアさぁぁぁぁん!」

 ルナリスは叫び、咄嗟に追いかけようとした。するとガルドがルナリスの腕を掴んだ。

「駄目だ! 死ぬぞ!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ルナリスはその場に泣き崩れた。

 暗闇に引き込まれてしばらくは聞こえていた悲鳴だったが、それは「うぐ……うっうぐ……」という声とともに、肉が裂ける音、血が散る音、そして骨が砕ける様な音の後、ぴたりと途絶えた。その後もそこから、肉を喰う音が聞こえていた。

 まさか……喉を嚙みちぎられたのか。あの、明朗快活のミリアが……死んだ? 本当に……? あんなに笑顔を絶やさなかったあいつが……。何があっても、一番死ななそうなあいつが。これは、現実なのか……。

 魔王討伐に向かうということは、当然死ぬこともあり得るということは念頭にはあった。しかし、こうして実際に死と直面すると、自分にもあり得る事だと、膝が震えた。

 ミリアだって、決してぬるい生き方をしてきたわけじゃあないはずだ。超級魔法が使えるようになるため、辛い修行も乗り越えてきただろうし、魔物と対峙することだって未経験じゃあないはずだ。そんな彼女が、死んだ……。

「くっ、ミリアはもう駄目だ! いいか、陣形を乱すな! 全滅するぞ!」

 ガルドの声が暗闇に吸い込まれる。構えを解いていたトウカも、改めて構えた。

 ルナリスは嗚咽混じりに泣き崩れたまま、立ち上がる事が出来ないでいた。ガルドとトウカは、俺とルナリスを挟んで背中を向けて立った。王様から言われていた、「命を賭して守り抜け」という命令の元、俺とルナリスを守り抜くつもりなのだろう。この状況で、一切ひるむことのない精神力は、本当にすごい。ガルドはこういう経験を、いくつもしてきたのだろう。

 トウカも若いが、その表情に動揺の色はない。この強さが、派遣隊たる所以ゆえんなのかもしれない。

 俺も、しっかりしなくては。戦えないにしても、せめて、二人が守りやすいように立ち回ろう。そして、ガルドに言われた通り、しっかり首と腹を狙って切る。一匹でもやれたら誉だ。死にたくはないが、死ぬつもりでいかないと、怯えていたら本当に死んでしまう。

 腹をくくれ風間蓮! ミリアを失った事は残念だが、ガルドとトウカ、それにルナリスまでも失ってしまったら、例え元の世界に戻れたとしても、俺は一生立ち直れない。

 膝は震えているが、大丈夫。ははっ、こんなの、スーパークレーマーの母親と面談したあの日の朝と比べたら、何てことない。元小学校教師の精神力なめんなよ。



 第八話「闇に飲まれた笑顔」 終わり

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