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第一話「悪魔を封印せし者」4

 外へ出ると、眩しい太陽の光が射した。それでいて涼しい風が頬を撫でる。

 すぐ横から視線を感じた。そちらを見ると、麦わらの様な被り物の下から、ルナリスが目を覗かせて、じっとこちらを見ていた。

「ん、何だ? 俺が何かおかしいか?」

「い、いえ、その……お召し物が、あまり見ない物だったので、つい。すいません」

 ルナリスが着ている服は、麻で仕立てられた生成りのチュニックに、履物はゆったりとした脚衣だった。辺りを見渡しても、男女問わず皆同じ様な服を着ている。それなら確かに、俺のこのチェック地のシャツにジーンズという出で立ちは、かなり浮いているかもしれない。しかし、これしかないのだから仕方がない。

「やっぱ、おかしく見えるか?」

 俺がボサついた頭を掻きながら言うと、ルナリスは慌てて答えた。

「い、いえ! そんなつもりで言ったのではなくて、その、本当に、珍しいな、と思っただけで……」

 ルナリスは視線を右へ左へ泳がせ、指先で裾の端を弄んでいた。頬にうっすら朱が差して、口の端が小さく震えている。そんなに慌てることはない。この村の人たちに、俺の姿が奇怪に思われたって俺はどうってことはない。そもそも民族が違うのだから、服装は違って当然だ。

 しかしそんな彼女の慌てぶりが、少し可笑しかった。

「おいおい、そんなに慌てるなって。俺は全然気にしてないんだから」

 少し笑いを含ませながら、そんな風にフォローしておいた。するとルナリスは、俯いたまま、ペコっと小さく頭を下げた。

 道中、ルナリスは色んな事を教えてくれた。

「この村はアリオスといい、アリオスには、祈る、という意味があります」

「村の人口は三六五人です。この前赤ちゃんが生まれて、一人増えました」

「大きくはありませんが、学校もあります。優秀な子は街へ出て、もっと大きな学校に行きます。それから学者になったり城に仕えたりもします」

「村の真ん中には大きな井戸があります。朝と夕は、みんなが水を汲みに集まってお話をします」

「お祭りは年に二度。春は収穫の祈り、秋は星に感謝をします」

「たまに旅の商人が来ます。その時はみんなで広場に集まって、色んなお菓子を買うんです」

 正直、よく喋る子だなと思った。気が弱そうにしていたから、てっきり寡黙なタイプかと思っていたが……偏見だな。

 お返しに、と言ってはなんだが、俺は日本のことを教える事にした。

 何の話をしようかといくつか候補を挙げた中で、俺が寝ていた部屋の灯りに、かがり火が使われている事を思い出したので、こんなことを教えてみた。

「日本の部屋には電気ってのがあって、夜でも、部屋の中を昼みたいに明るくできるんだ」

 そう言うと、ルナリスは小首をかしげた。

「……? お昼の明るさを閉じ込めているのですか」

「いや、スイッチで点けるだけ」

「……“スイッチ”って、魔法の杖ですか?」

「あ、いやぁ、そうじゃあないんだ……」

 ちょっと驚く顔が見たかっただけだが、説明をするのに説明が必要という泥沼に入りそうで面倒になったので、もう一つの候補に話題を変えた。

 リュックにしまっておいたスマホを取り出して見せた。

「あと、これで遠くの人とも話せる」

 ルナリスは、俺が持つスマホを覗き込んだ。するとこいつは、またも的外れなことを言い出した。

「声を閉じ込めて持ち歩くなんて……そんなことができるんですか?」

「あ、いや、そうじゃないんだけどな。声をお互いに送りあう、っていうのかな」

 今度は、「それはすごいですね」とだけ言い、まじまじとスマホを見た。

「しかも写真も撮れるんだ」

「写真?」

 写真を知らないのか。あの村が、どれだけ俗世と関わっていないかが伺える。

 俺はカメラのアプリを立ち上げると、インカメで俺とルナリスを映した。すると今度こそ、ルナリスの驚くリアクションを見ることが出来た。

 彼女は、「ひゃっ」と息を飲んで、口に手を当てた。

「これは、鏡ですか? 初めて見ました」

「鏡? 違うよ。例えば、これをこうすると」

 そう言って、俺と、目を丸くしたルナリスを写した。そしてその写真を、改めて画面に出した。

「ほら、こうやって映像を記録として残しておくことができるんだ。これが写真だ」

「す、すごいです! ここにわたしはいるのに、この中にもわたしがいます! どういう魔法なのでしょうか」

 これだ、この驚く顔が見たかった。

 その後も、水道、ガスコンロ、アイスクリーム、色んな話をしてやった。そのひとつひとつに、「ひねるだけでお水が出てくるなんて、そのお水は誰が汲みに行っているのですか」だとか、「それもひねるだけで火が出せるんですか。魔法としか説明がつきません」だとか、「冷たいお菓子ですか。山の上で取れるお菓子なのでしょうか」だとか、そんな素っ頓狂な返しをしていた。正直、ちょっと楽しめた。



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