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第七話「森が哭く夜」3

 ルナリスは真剣にガルドの目を見ており、無表情ではあったが、珍しくトウカもその話を聞いていた。

「その空の下、遠くの地平線にうっすら見えたんだ、黒いもやもやっとした塊が、見渡す限りびっしりと。……とてつもない量の、魔物の群れだった。低く地を響かせるやつらの足音は、忘れもしない。そいつらはあっという間に城下にたどり着き、大きな町の人間は、文字通りゴミの様にちぎって捨てられ、食われる者もいた」

 トウカは抱きしめていた刀を、ぎゅっと握りしめた。

「それで城の衛兵たちは皆、討伐にあたったのだが、魔物と人間では、そもそもの体の造りが違う。言えば大人と赤子も同然だ。衛兵でも腕のたつやつは何とか凌いでいたが、それでもやはり人間では太刀打ちできない。衛兵が全滅するのも、時間の問題だった。衛兵ってのは王を守るのが第一だったが、俺は妻と五歳になる娘の安否が心配になって、一番に家に向かったんだ。そうしたら、そこに見たことのない様な魔物がいた。ヴォルグの様な、毛で覆われた巨躯の魔物だった。娘は片腕を失い倒れ、泣きわめいていた。妻はその魔物に体ごと掴まれ、食われようとしていた」

 ガルドの言う光景が、まるで目の前に浮かんでくるかの様な錯覚に陥る。ルナリスもそうなのだろう、目には恐怖が浮かび、唇を噛みしめていた。ガルドもまた、表情を曇らせたまま続けた。

「俺は必死でな、持っていた剣をその巨躯に突き立てたんだが、あまりにも硬く、剣は折れてしまった。体は飛ばされ、そして妻は……食われてしまった。俺はそこから記憶が無くてな、何かを叫んでいた様な気はするんだが、気が付いたら、目の前に魔物の巨躯が倒れていた。その目には、折れた剣が刺さっていた。俺が、無我夢中でやったんだと分かった。そこで娘の事を思い出し駆け寄ったが、既に心音はなかった……」

 ガルドの目に涙が浮かび、零れた。そんなに辛い過去があっただなんて、思いもしなかった。ミリアも大きく息を吸い、肩を落とした。

 俺はちょっとした興味本位で“黄昏の大審判”の事を聞きたかっただけだったが、ガルドに、そんなに辛い過去を思い出させてしまった事を後悔していた。俺は耐えられなくなり、ガルドの話を遮った。

「なあ、おっさん、悪かった。まさかそんな経験をした話とは思わず……」

 するとガルドは、俺の目を見て、そしてルナリスとトウカの目もしっかりと見て、微笑んでくれた。

「いや、いいんだ。聞いてほしい。これから長旅になるだろう、俺の事、知っておいてほしい」

 涙を浮かべながらも、力強く頷きそう言うと、続きを話した。

「それから、俺はもうどうなっても良いと思いつつも、妻と娘の復讐のため、一体でも多くの魔物をやろうと決意した。そうして、一心不乱に魔物どもの目をえぐった。弱点だと分かったからな。折れた剣で、何体も何体も。やれるばかりではなかったから、もちろんこちらも満身創痍だったが、それに気づいたのは、全てが終わった後だった。聞けば魔物は引いて行ったとの事だったが、辺りは魔物や民間人、それに衛兵のおびただしいほどの数の死体だ、時すでに遅し――だ。俺の体も、自分の物なのか魔物の物なのか、鮮血で染まっていた。臆病風に吹かれて城に残っていた衛兵もいたと聞かされた時は激怒したが、反面、あの惨状では仕方が無いか、とも思った。結局、城から出て生きて帰ったのは、俺だけだった」

 ガルドはそこまで言うと、ひと息ついて、最後に――

「それが、“黄昏の大審判”だ」

 と締めた。


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