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第七話「森が哭く夜」1

 城門までの城内の道すがら、ふとこんな事がよぎった。

 ――ルナリス本人は、自分の中にいる存在の名前を、認識しているのか。ということだ。

 もし認識しているのなら、これから行く魔王討伐をどのように捉えているのか。そいつが自分の中にいると知ったら、こいつはどうするのか。そこを知りたかった。

 大臣から魔王の名前を聞いた時、こいつは特に気に掛けるような素振そぶりは見せなかったし、魔王も「契約を交わした記憶はあるが、それは潜在的な記憶だ」と言っていた。もしアザル・ヴェルクという名前が、大臣の一言で一致したのなら、ショックなり何なり受けるだろう。それがいつもの通りひょうひょうとしていた。

 ルナリスはきっと気付いていない。自分の中にいる“やつ”の名前を。

「なあルナリス」

 俺は意を決して、声を掛けた。ルナリスは歩きながらこちらを見て、口角を上げた。

「はい、何でしょう」

「あのさ、お前の中にいる悪魔って、名前とかあるの?」

 するとルナリスは、顎に手を当てて宙に視線を泳がせた。

「え、名前……ですか。そういえば知らないですねぇ。何だか朦朧としながらも契約を交わした記憶はあるのですが、その時言っていたような――言っていなかったような。夢を見ているかのような感覚だったので……すいません」

 顔を伏せ、そう謝った。

「いやいや、いいんだ。ただ、名前があれば、愛称なんて付けると呼びやすいかな……なんてな」

 咄嗟に出てきた嘘だったが、ルナリスは「それいいですね!」と、意外と乗り気だった。もう少しまともな嘘にすべきだったか。

 ともあれ、こいつは自分の中にいる存在の名前までは知らなかった。

 あとはどうするか、だ。魔王の所在を知っているのは、この世界で俺だけだ。魔王討伐に向かおうっていうのに、その隊のメンバーの中に魔王がいちゃあまずいだろう。ルナリスから魔王を引っ張り出して倒すのか? それともルナリスごと……。考えたくはないが、国を賭した討伐なのだ。最悪のシナリオもあり得る。

 ルガートは恐らく、ルナリスの中に悪魔が封印されていると睨んでいるだろう。もしそれが判明した場合、悪魔はどのように処遇されるのだろう。……こちらも、最悪のパターンがあるかもしれない。

 真実は、いつ、誰に言うべきか、しっかりと吟味しなければならない。事によっては、墓場まで持っていくことも辞さない。

 ――こいつは、俺が守る。



 城門に着くと、既に見慣れた三つの影が、そこにあった。

 門は大きく開かれていて、その向こうでは、復興に追われる城下町の喧噪が絶え間なく響いていた。

 割れた瓦を運ぶ音、木槌の打つ乾いた音、誰かの指示の怒鳴り声、焦げた石の匂い――ヴォルグの襲撃の痕跡は、まだ町の随所から煙のように立ち上っていた。

 そんな混乱の只中、城門の三人だけ、静かな雰囲気を纏っていた。

 ガルドのおっさんは、披露会で見せた大剣とは違い、通常の剣を携えていた。しかし通常と言っても、ガルドが携えて初めて通常の大きさに見えるだけで、そこらの兵士が持っている剣とは、一回りも二回りも大きい物だった。

 その隣にはミリアがいた。先日着ていた修道服とは色が違い、黒い修道服に身を包んでいた。躍起になってトウカに何かを話してはいるが、トウカはそっぽを向いて無関心を示していた。

 近づくと、そんなミリアが一番に気付いてくれた。

「あ、レンさんルナリスさーん! こっちですよー!」

 ミリアがこちらへ手を振った瞬間、ゆったりした修道服の袖がするりと落ち、白い腕がひょいと覗いた。本人は気付いていないのか、そのまま満面の笑みで大きく腕を振り続けている。


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