第六話「魔王少女」3
昨晩ルナリスは確かに俺にこう言った。
――悪魔の回復魔法は、凄まじいですね。
それは即ち、“自分の中にいるのは悪魔”だと、そう思っている。アザル・ヴェルクの、魔王としての記憶は見られていない。そう考えていいだろう。
そうなると、もうひとつだけ気になった。
「な、なあ、ルナリスは、自分の中にいる悪魔は、“自分が封印している”と認識しているかどうか、分かるか?」
聞くと、魔王は少しだけ宙に浮かび、そこに椅子があるかのように、足を組み座る体勢になった。肘置きで頬杖をつくと、小さくかぶりを振った。
「いや、どうやら、突然憑依してしまったと、そう認識しているらしい。そしてそれを、良くは思っていない」
「そうなのか……」
それもそうか。何せ、悪魔が自分の中に入ってしまっているのだ。誰かが封印していた悪魔が解き放たれ、自分に入ってきたかもしれないと、考えが過っても不思議ではない。
そう考えていると、悪魔は「が――」と続けた。
「こんなことも思っている。――強い悪魔が身を守ってくれて、心強い。と」
魔王は口角を上げると、「ふん、人間は勝手な生き物だ」と言い、ルナリスが寝ていた木陰へ瞬間移動した。そこで横になった。
「少し眠る」
横になってすぐ、ルナリスの体は起き上がり、大きなあくびをした。目を擦ってこちらを見る。その左目は、真っ白だった。どうやら、魔王は本当に眠ってしまったらしい。
ルナリスは優しい笑顔を見せた。
「すいません、ちょっと寝てしまいました」
相変わらず寂しげではあったが、笑顔の目の奥に、憂いはないように感じた。
ルナリスはこんな事を続けた。
「ちょっと、夢を見ていました。わたしが、凄い魔法を使うんです。さっき芸の披露会にいた、学者さん二人にその魔法を見せる為に使うのですが、真っ赤な炎の壁が目の前に現れて……。すごかったんですよ。爽快でしたぁ……レンさんにもみせたかったなぁ」
静かに説明をするルナリスの目は、輝いていた。先ほどまでの曇っていた表情からすると確実に、“元気が出た”と解釈してもいいだろう。
そしてこのルナリスの夢の話は、先ほど魔王が出した魔法の話らしかった。それをルナリスが、夢で出したと勘違いをしているらしい。ルナリスは魔王と違い、中にいる時は、完全に眠っているというわけではないようだ。
俺は「そうなのか。実際に魔法も使えるようになったしな」と笑顔で返しておいた。
* * * * *
翌朝目を覚ますと、先日同様、ルナリスが荷物の整理をしていた。
「おはよう」
体を起こしながら言うと、ルナリスは満面の笑みで返事をしてくれた。
「あ、おはようございます!」
その目は爛々と輝いており、何なら、整理をしながら鼻歌まで混じっていた。やけにご機嫌なことを指摘すると、「はい、冒険に出るのが、楽しみすぎてっ!」と言った。一晩寝て、完全に気分が晴れたらしい。それにしても、ルナリスはそういうのは苦手というか、どちらかと言うと奥ゆかしい人間だと思っていた。なのでその反応に、思わず呆気に取られた。
「そ、そうか。まずは魔法都市とか言っていたな。なんて町だっけか」
「ノクティアです。お昼より夜の方が賑やかなんですよ。夜の町と言われることもあります。わたしも小さい頃に、一度だけ行ったことがあります」
夜の方が賑やかというのは、俺の心も少しばかり躍った。夜の町というからには、飲み屋やらが軒を連ねる様な場所なのだろうか。最近は仕事が忙しく、しばらく酒を飲んでいなかった。ノクティアにあれば、是非店を覗きたいものだ。
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