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第五話「それぞれの武器」8

 それよりもルナリスだ。相変わらず魔法を出せずにもたついていたが、とうとう見かねた大臣が、「もうよい、席へ戻れ!」と声を張り上げた。その声は、あからさまに不機嫌を呈しており、その場の緊張感を煽る形となった。

 学者の二人はと言うと、お互いを見合い、口元を隠すように肩を震わせていた。まったく、クソったれな奴らだ。

 ルナリスは駆けて席に戻ってきたが、頬は紅く染まり、その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。……。正直、こういうのは苦手だが、こんな時こそ教師時代の経験がものを言うんじゃなかろうか。そう発起し、ルナリスへ声を掛けた。

「お疲れさん、頑張ったな」

 俯く彼女の肩を軽く叩いてそう言うと、ルナリスは肩を震わせた。そして、ぽたぽたと水がしたたった。涙だった。その涙は、膝の上で握りしめられている両手の上に、とめどなく落ちた。

 さて、どうしたものか。ここからが勝負だ。こういう時は、励まそうとすると、逆効果だったりするが、それも人によりけりだ。小学校の頃は色んな生徒がいて、その生徒に合わせて声を掛けてきたが、ルナリスはどっちだろうか……。まあ、こいつも子供じゃないんだから、ここは俺の率直な気持ちを届けてやるか。

「泣け泣け、たくさん泣いて、泣き止んだら、飯食いに行こう」

 そう言うと、ルナリスは顔を上げて俺を見た。その目からは過剰でもなく、ドバドバと涙が零れていた。そしてまた、顔を崩して泣き出した。

 ……選択ミスったか? 誰かこいつの攻略本を買ってきてくれ。


 大臣は大きく手を叩いて注目を集めると、そのまま締めの挨拶をした。続けて王様が“派遣隊には明日出発してもらう”とか何とか言って、お披露目会の幕は閉じた。

 中庭を出る際、ミリアは大臣にこっぴどく叱られていたが、これは言うまでもない。



 中庭から自室へは戻らず、散歩がてら城の外にルナリスを連れ出した。瓦礫の町と化したそこは、散歩には不向きかもしれなかったが、そのまま自室に戻るよりはマシかと思いそうした。自室にいると、ルナリスが塞ぎ込んでしまいそうで。

 ゆっくり歩く俺の、一歩下がったところからルナリスがついてくる。泣いてはいないものの、俯いて何も喋ろうとしない。なので俺が一人で喋る。

「あの狼、ヴォルグって言うんだな」

「あんなのに襲撃されたら、こうもなるよなぁ」

「襲われるって分かったから、今度は城下町も門を作るかもな」

「……今日は、空が高いな」


 ……。

 ……。


 これ以上は、もう無理だ。何を言えばいいやら。何を言っても無反応なところを見ると、もしかしたら自身でも延々と何か考えているのかもしれない。お披露目会での何かを。そうなると、ルナリスを立ち直らせることが出来るのは、“時間”しかないのかもしれない。時が経つのを待って、ある程度落ち着いたら、改めて励ますのがいいだろう。

 そう決めたはいいが、このまま自室へ戻るのはやはりはばかられたので、この陽気にかまけて“のっぱら”で寝転がるのも良いかと考えた。

 ルナリスに提案したが、相変わらず反応は無かった。しかしちゃんとついては来るようだったので、城下を出てすぐの、小盛りになっている木陰で二人して寝転んだ。


 目を瞑ってまどろんでいると、そばでクスクスと笑い声が聞こえた。

 そちらを見ると、あの学者二人がこちらを見ていた。見たことのない、馬の様な竜の様な、変な動物を引いており、その動物にはいくつか大きな袋が下げてあった。二人の荷物なのだろう。住んでいる町に帰るところなのだろうが、ここで出会ってしまったのは運が悪かった。

「これはこれは、披露会に出席はしていたものの、結局何も見せなかった殿方と、大魔導士のルナリス殿ではありませんか」

「こらこら、そんな事を言うと、何も出来なかったルナリス殿に失礼ですよ」

 言うと二人は、肩を震わせて笑った。

 ……こいつら、いい歳こいてガキみたいな口叩きやがる。正直、ボコボコにしてやりたかったが、ここで事を起こしても面倒が増え、ルナリスにも余計な心労をかけてしまうだけだ。未だ学者に気付かずに、昼寝を続けているルナリスを一瞥し、決断した。ここは、折れよう。

 俺はこれ見よがしにため息をついて答えた。

「どうも。ルナリスの魔法が出なくて残念です。凄まじい威力の魔法、是非見てもらいたかったのですが」

「いやぁ、見たかったですよぉ。まあ、スランプで魔法が出なくなるなんて、そんな事もありますよ。もっとも、彼女だけでしょうがねぇ」

 そう言うと、もう一人の学者が「ブフッ」と吹き出した。

 その時だった。


 ――見せてやろうか。そんなに見たいのなら。


 不意に声がしたのは、学者の背後だった。学者を視界からよけ、その奥を覗き込んだ。そこには、ルナリスが背中を向けて立っていた。腕組をして。ちらと見える首筋からは、赤い光が揺らめいていた。魔法陣だ。

 さっきまで木陰で寝ていたはずのルナリスが? ……と思い、木陰の方を見やるが、勿論そこにルナリスの姿はない。学者も驚いて背後を見た後に、俺と同様、木陰とルナリスの背中を何度も確認していた。

「なっ、いつの間に……」

 学者は数歩下がる。この特異な状況を恐れているのだろう。

「貴様ら二人に見せてやろうかと言っている、私の力を」

 その声こそルナリスのものだったが、声の高さがまるで違う。明らかに低い。学者も気付いているのだろう。ルナリスの“異質”な雰囲気に。

 学者はこれまでの態度の手前、身を引く事が憚られたらしい、尚も強気な姿勢を見せた。

「おお、ルナリス殿、とうとう見せてくれるのですね。噂通りの、ベビーマシュマロの重魔法を見せて頂けるのですね。是非お願いします」

「ベビーマシュマロと言わず、カオティック・リベリオンでもインフェルノ・ヴォイドでもネクロマンス・オブ・ルシフェルでも、どれでもいいぞ」

 ルナリスの背中がそう言うと、学者は引きつった笑いを上げた。

「ハ、ハハハ、ご冗談を。ルナリス殿は、ベビーマシュマロが使えたばかりだと――」

 するとルナリスは学者の言葉を制し、「なんなら――」と言って、こちらに半身を向けてニヤリと微笑み、顎をクイと上げ眼光を走らせた。そして見下す様にこう続けた。

「オメガ・アルカナでもいいぞ」

 その左目は真っ赤に染まり、揺らめいていた。



 第五話「それぞれの武器」終わり

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