第五話「それぞれの武器」7
ミリアによって焼かれた藁束だったが、従僕が新しい物を持ってきた。
ルナリスは深く息を吸い、中庭の隅にまで通るほどの声を響かせた。
「わたしはこれまで、一切魔法は使えませんでした。それが昨晩の一件で、突然使えるようになりました。何故使えるようになったかは分かりませんが、必死に唱えた詠唱で、初めて使えたのです。そしてその魔法は赤く染まっていました」
学者の方を見ると、真剣にルナリスを見ていた。例の赤い魔法が気になるのだろう。ルナリスは続ける。
「もしこれが朱の詠唱であれば、魔王討伐にも、一役買えるのではないかと思いました。今はベビーマシュマロしか使えませんが、もっと魔力を身に付けて、ミリアさんのように超級魔法も使えるようになりたいです。と、とりあえず、今できる精一杯を、披露したいと思います」
そう言うと、ルナリスは両手をかざし、詠唱を始めた。
「偉大なる大地と炎の精霊よ、我が願いに応え、疑念体となり現れたまえ! フレイム・ルゥ!」
……。
が、何も起きない。
「あ、あれれ!」
ルナリスは顔を真っ赤にし、両手を見た。そしてもう一度唱える。
「偉大なる大地と炎の精霊よ、我が願いに応え、疑念体となり現れたまえ! フレイム・ルゥ!」
……。
やはり何も起きない。
「あらら、これが、昨晩猛威を振るっていた魔法使いですか」
学者の一人が言うと、もう一人も続けた。
「数十体のヴォルグに攻め入れられたのです、誰もが記憶違いをするのは当然でしょう。大臣殿が見間違えたとは思っていませんが、しかしこれじゃあ……ねぇ。そもそも、初級的重魔法詠唱なぞ、妄信に過ぎません」
二人は若干ふくんだようにニヤついている。ルガートもそうだが、この学者二人もいけすかねえ野郎だ。
大臣は顔を真っ赤にして、固く握った拳を震わせていた。自身の発言を否定されて悔しがっているのか、“歴史が動くかもしれない”発見を、逃してしまいそうだと感じているのかは分からない。しかしいずれにしても、ルナリスを信用されていないようで、今の大臣の気持ちはよく分かる。
そんな大臣の横で、ルガートは立ったまま、腕組をしてまっすぐルナリスを見ていた。もしかしたら、ルナリスの魔法に備えて立っているのかもしれない。こいつは昨晩、ルナリスの魔法を目の当たりにしている。それをパニックで引き起こした記憶違いだとは、微塵も思っていないのだろう。先ほどの様な魔法が出た場合、またバリアを張るつもりなのだ、きっと。
大臣とルガートが疑われる中、ルナリスもまた、さらに顔を紅潮させていた。すでに三回目、四回目、五回目と、詠唱を連続で失敗していたのだった。ルナリスは顔を伏せると、誰ともなく、こちらを見た。ここからエールを送ってやりたかったが、それで魔法が出るとは到底思えなかった。俺もまた、奥歯を噛みしめた。
「ルナリスちゃんまた魔法出せなくなっちゃったのかなぁ。私は信じてるんだけどなぁ、彼女がヘビーマジックを使ってたって噂」
声の方を見ると、ミリアが眉を下げ、心配そうにルナリスに視線を送っていた。
「昨晩は俺もルナリスとずっと一緒にいたけど、あいつが魔法を使うところは、しっかりと見たんだ。確かに赤い魔法だった。……もしかして、昨日の魔法で、魔力がなくなったとか?」
俺が言うと、ミリアはこちらを見た。そして頬に手を添えて、少し考える素振りを見せた。「うーん、そうねぇ」と思案しているその表情は、これまで見せていた顔が嘘みたいに真剣だった。ちゃんとしている時はちゃんとしているらしい。
と、思ったら、急に何かに気付いた様にハッと口を押さえ、「も……もしかして」と狼狽した表情を浮かべた。俺が、「な、何だよ急に」と嫌厭を示してそう言うと、ミリアは「き、きっと……」としっかりと溜めて前置きをした後、こう続けた。
「昨日の魔法で……魔力が、なくなったんじゃ……」
「いや、それ俺がさっき言ったやつ……」
ミリアのその表情は慄然としており、この世の恐ろしい物を見てきたのではというような血色をしていた。が、俺の言葉を聞くと、パッと表情を明るくし笑顔を作った。
「はい、レンさんのセリフを、オマージュしてみました」
「……」
指をピンと立てているのが妙にムカつく。
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