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第五話「それぞれの武器」6

 満面の笑みで言うと、早速詠唱を始めた。しかし、その声はいつもより一段と低く、澄んだ鋼のように凛としていた。

「偉大なる大地と炎の精霊よ、我が願いに応え、疑念体となり現れたまえ。その烈火の咆哮で、我が敵の影を焼き尽くし――」

 詠唱が始まった瞬間、隣のルナリスが小さく肩を跳ね上げた。

「え……この詠唱……」

 ミリアの周囲に揺らぎが生まれ、空気が震えているのが見えた。

「――混沌を裁き、災厄を消し去らん。いざ、光と焔よ、我が手に従い、此処に力の奔流を示せ!」

 ルナリスは口元を押さえて震える声で言った。

「こ、これ! 超級魔法です!」

「――フレイム・アルド!」

 ミリアが魔法を唱えると、瞬時にルガートが立ち上がり、皆が座っているテーブルに半球状のバリアを張った。給仕たちも、慌てて城の中へ避難した。

 ミリアのかざした右手からは、青い炎が放たれ、中庭一帯はその炎に包まれた。その炎は、おおよそ五階建てビルくらいの高さまでに上り、芝生は一瞬で黒く焼け、藁束も炎と爆風で消し飛んだ。


 焼野原と化した中庭。俺たちの座るテーブル周りだけ、芝生の緑が生きている。大臣は頭を抱えていたが、王様は「これまた見事」と拍手をしていた。

 ミリアはこちらを振り向くと、「ちょっと張り切り過ぎちゃった」と舌を出して茶目っ気を出していたが、肩で息をしているのが分かった。さすがにこれだけの魔法を出すのは、使える人間だとしても相当な魔力を使うのだろう。

「回復専門なのに、超級魔法が使えるだなんて、本当にすごい方なんですね」

 不意に、隣のルナリスが体を固くして言った。

「超級魔法って、そんなに難しいのか?」

「ええ、超級魔法は、魔力が暴走するギリギリのところで保つ必要があると聞いたことがあります。魔力が暴走することを“制御反転”といいますが、そこまで瞬時に上げた魔力を、突然止めるだなんて常人の技じゃありません。ミリアさんは、その修行を乗り越えたのでしょう。普段は“あんなん”ですが、本当にすごい人だという事が分かります」

「はは、そうだな、“あんなん”だな」

 ルナリスは真剣な面持ちだったが、妙な言い方をしたのが可笑しくて、笑ってしまった。

 俺も普段からふざけた女だなと見ていたが、ルナリスの説明を聞いて、ミリアを見る目が変わった。しっかりと修行をした上で、こうしてこの場にいるのだなと。

 ガルドやトウカもそうだったが、やはり派遣隊に任命される人間というのは、とてつもないやつばかりなのかもしれない。ということは、あのルガートもまた、例外ではないはずだ。超級魔法を防ぐバリアを、瞬時に張るほどだ。あいつも、超級魔法を使えるのだろうか。

「それでは最後、ルナリス殿!」

 大臣の声が、中庭を囲う壁に反響する。

 呼ばれたルナリスは、「はい!」と大きく返事をしすぐに立ったが、その声は若干上ずっていた。相当緊張しているらしい。歩き方もぎこちなかった。


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