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第五話「それぞれの武器」3

 するとそれに便乗して、もう一人の学者も口を開いた。

「私も同意見です。この子がヴォルグを数十体やったと聞きましたが、派遣隊がやったのではありませんか。聞けば相当な混乱だったと言うじゃありませんか。城下の状況も見ましたが、その凄惨さは一目瞭然です。誰もが混乱に陥っていた可能性は、十分にあります。誰が何体のヴォルグをやったかなんて記憶にないはず。それに――」

 学者が次の言葉を繋げるのを制して、大臣が割って入った。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。わしは確かに見たんじゃ、この城から、城下の混乱の最中さなか、真っ赤に立ち上る炎の柱を。それも数回。あれは見間違えなんかではない。ルガートも見ておったろ」

 そう言ってルガートを、上目で一瞥した。

「はい、この眼で確かに見ました。しかしその詠唱は間違いなくベビーマシュマロでした。この事実は、揺るぎません。こいつは否定していますが、やはり大量のヴォルグ殺しは、そんな“小娘”がやったと信じて疑いません。その理由が、これまで魔法を使えなかった事と、何か因果関係があるのだと、私は確信しております」

 ルガートがルナリスを鋭い眼光で刺すと、ルナリスはサッと顔を伏せた。

 この男もしかして、ルナリスの中に悪魔が封印されていると勘ぐっているのではないだろうか。それどころか魔王が封印されているのだが、もしそうだとすると、こいつはやはり“やり手”だ。

 ん、まて。となるとどうなる? そもそも大臣にルナリスを紹介したのは、このルガートだ。そして大臣は、「そこにラァラという魔法学者の女がおる。彼女は魔法に精通する他、悪魔や魔王についても研究しておる“カルテナ教団”という組織に入っておる。何かしら助力が望めるじゃろう」と言っていた。このラァラとかいう学者にルナリスを調べられたら、封印されている魔王の事がバレてしまうのではないだろうか。そうでなくても、何かしら邪悪で強大な力に気付いてしまうかもしれない。

 迂闊だった……気付くのが遅すぎた。大臣は分からんが、ルガートのやつ、これは確信犯だ。はなからルナリスを調べさせる為に、魔王討伐の派遣隊に任命させ、最初にラァラを尋ねるように仕組んだんだ。

 もし、悪魔や魔王を封印していると分かったらどうなるんだ? 神を封印しているやつは、俺が倒れていた山で今も封印しているらしいが、悪魔を封印しているやつはどうなんだ。ルナリスが魔王を封印しているのは分かっているが、村で聞いた話では、“悪魔を封印している”と言っていた。となると他にもいるはずだ、悪魔を封印しているやつが。どこかに。

 ルナリスも、封印者だと分かったら、どこかの山や洞窟で過ごさなければいけなくなるのだろうか。そんな事はさせたくはないが、そうしなければ人類に危険が及ぶのかもしれない。そうなると、封印者がのうのうと生活をするという事は許されないだろう。

「……ヴォルグ殺しは、私じゃない」

 ルナリスは俯きながら、ぼそりと呟いた。その声はあまりに小さく、隣にいた俺でも聞き逃しそうなほどだった。ルナリスは、もしかしたら本当に、“あの時”の記憶が無いのかもしれない。魔王と契約し、そこから最後のヴォルグと対峙するまでの記憶。

 すさまじい力でヴォルグどもを殺していったあの時、ルナリスは“記憶が曖昧だった”というが、どのように記憶しているのだろう。本人に確かめてみたいが、実際にヴォルグを大量に殺したのが自分だと気付いたらショックだろうか。いや、城下を救ったのだから、喜ばしいことの様にも思えるが……。

「まあ、とにもかくにも、その小娘の力は、この後じっくり拝見させていただきます」

 学者の一人がそう言ったところで、メインディッシュの肉が運ばれた。


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