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第五話「それぞれの武器」2

 そしてミリアはかじりかけのパンを片手に、頬をこれでもかと言う程に膨らませながらトウカに喋り掛けていた。満面の笑みでぺちゃくちゃと話してはいるが、トウカのスプーンは、スープと口との間をただひたすらに往復しているだけだった。そしてその表情は、“無”であった。ちゃんと聞いてやってくれと願うが、ミリアは気にしていない様子だった。

 それぞれに食事を楽しんでいるらしい。スープもパンも、それなりに美味かった。しかし正直、これならミリフィカを入れたルナリスの料理の方が美味かった。まあ、ミリフィカを入れるなら、“ルナリスの”というとちょっと語弊はあるが……。

 そんなルナリスは「美味しいですね!」と言いつつ、左手に食べかけのパンがあるのに、三つ目のパンに手を伸ばしていた。それなりに腹が減っていたらしい。

「ところでルナリス殿」

 不意に呼ばれてそちらを見ると、大臣がこちらに向き直っていた。殿を付けたり呼び捨てしたりするのは、かしこまった場では“さん付け”するみたいなものなのか? よく分からんじいさんだ。合わせて学者のおっさん二人もこちらに体を向けていた。

 ルナリスも返事をしつつ、大臣の方に体を向けた。

「昨晩使用していた魔法の事じゃが、あれは重魔法で間違いないか?」

 聞かれて、ルナリスは眉を下げて答えた。

「それが、自分でもよく分からないんです。唱えた詠唱はベビーマシュマロのフレイム・ルゥだったのですが……」

「しかし、出たのは赤いルゥだったと」

 大臣に言われ、ルナリスは俯き表情を曇らせた。大臣は続けた。

「なに、別に責めとるわけじゃあないんじゃから、そんな顔しなさんな。特に気になったのは、聞けばお前さん、魔法はこれまで一切使えなかったというじゃないか」

 ルガートもこちらを見ている、この情報は、間違いなくヤツがリークした情報なのだろう。大臣にどれだけの媚を売っているのだろうか。しかし嫌な奴だが、出世するやつってのは決まってこうだ。同行していた派遣隊のメンバーも、実力はありそうな三人だった。こいつは間違いなく、仕事は出来るタイプと見た。

 ルナリスをちらと見ると、小さく頷いて、両手を膝の上に置いた。

「はい、昨晩、とても不思議な体験をしました」

 ――ん、ルナリスのやつ。もしかして魔王と契約を交わした事を言うつもりなのか?

 そう思ったが、さすがにそれは本人も言うべきではないと判断したらしかった。

「自分がやられると思いつつも、必死にフレイム・ルゥの詠唱を繰り返していました。やはり全然出なかったのですが、五回目の詠唱で、手に宿った炎は、赤色でした」

 大臣や学者は、「ふむ」と興味あり気に身を乗り出した。ルガートも気になるらしく、目だけはしっかりとルナリスを捉えていた。ルナリスは続ける。

「そのルゥを放った直後、全身がだるくなって立っていられなくなったんです。慣れもしないのに、魔力を一気に使ってしまったからかもしれません。力も絶え絶えに、這っていると、背後からヴォルグに襲われました。瞬間、体に底知れない力が沸いてきたのです。その時、左目が熱くなって……その後の記憶は曖昧です。そしてレンさんに抱き起され、気が付いた時には、左目が見えなくなっていました。そしてそこで改めて唱えたルゥも、やはり赤く染まっていて、その威力は、従来のルゥとは桁違いでした」

 言い終えると、ルナリスは視線を落としてため息をひとつついた。

「初級的重魔法詠唱……ではありませんかな」

 大臣は首だけを学者に向けて言った。すると学者の一人が、眼鏡を外しながら答えた。

「そうですね。その可能性は否めませんが、いかがなものでしょうね。初級的重魔法詠唱というのは、そもそもヘビーマジックを極めた、言わば零式の次のステップで使えるとされています。しかしこれはあくまで推測で、ヘビーマジック自体も、使えていたのは悪魔だけだったと記述にあります。現代で誰も見たことのないヘビーマジックを、“その魔法が赤かった”というだけで、それを“ヘビーマジックだった”と決めつけていいものなのでしょうか」

 そう言うとルナリスを一瞥し、続けて大臣とルガートに視線を運んで、嘲笑する様にこう付け足した。

「それに、こんな小娘にそんな力があるとは思えませんがね」


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