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第三話「血の契約・解放」3

 少し歩くと、狼三体を相手にしている派遣隊に出くわした。この派遣隊は五人編成らしく、“あの男”はいなかった。

 悪魔はゆっくりとその派遣隊の前に出ると、狼と対峙した。腕組をしてじっと立っているだけではあったが、狼はその“凄味”を感じているのだろうか、一切動けずにいた。

「どうした、犬ころ。怖いのか、こちらから行くぞ?」

「お、おい、あの女の子、お前の仲間なのか? 殺されるぞ」

 派遣隊の一人が喋り掛けてきたが、俺は「多分……大丈夫っす」と返した。しかしその派遣隊の男は、「おい、応援呼んで来い! 民間人がやられるぞ!」と、仲間の女に叫んだ。すると女はすぐに駆けて行こうとした。――その時だった。

 一瞬。ほんの一瞬だった。まばたき一つした瞬間、悪魔は、余裕の表情のまま一蹴りで飛ぶように突進した。同時に、筋肉の隆起した巨大な漆黒の腕が現れ、その拳が、狼の頭部を潰した。潰された狼の頭は、その拳によって崩された民家の外壁ごと吹き飛ばされていた。

 舞う砂塵に、ルナリスのシルエットだけが浮かぶ。そして狼の巨躯は、そこに倒れ、痙攣していた。鮮血は辺り一面に飛び散り、ルナリスも返り血を浴びていた。その散りようが、衝撃を物語っている。混じっている肉片は、脳の一部なのだろうか。……気持ちが悪い。

 悪魔は挑発をするような、目で、口角で、残り二体の狼を見る。

「貧弱なる者よ、我が焔で灰にしてくれよう。永遠の地獄を味わえ」

 そう言うと、狼に向かって、風を飛ばすように右手を上げた。


 ――。


 ――ひと呼吸ののちだろうか。


 突如、目の前に数十メートルの真紅の火柱が立ち上り、周囲の空気が裂けるような轟音が響いた。火柱が突き上がると、爆音が城下町を揺らし、派遣隊の一人は腰を抜かして尻もちをついた。

「こ、これは、朱の詠唱? ……ヘビーマジック、なのか」

 そうか、これは赤いから、そうなのか。レッドスペルと、かつて神と対峙した悪魔が使用していたとされている魔法。

 ルナリスが出したフレイム・ルゥも相当の威力だったが、この魔法と比べると一目瞭然。やはりルナリスのあれは赤かったが、ベビーマシュマロだったのではと、再認識させられてしまう。

 派遣隊は五人とも、その魔法を目の当たりにして目を見開いていた。何せ記録にしか載っていない魔法を、眼前で拝んでいるのだから。

「弱い者ほどよく燃えるな、ククク」

 悪魔はそう言うと、その後も狼を殺しまくった。

 時には巨大な悪魔の腕で頭を握り潰し、時には殴り巨躯をバラバラにし、時には魔法で燃やした。その表情は、殺戮を楽しんでいるように見えた。

 そして最後の一体となった時、狼を眼前に、突然ルナリスの体が、どさりとその地に沈んだ。

「お、おい、どうした!」

 慌てて駆け寄り、その小さな体を抱き起す。

「おい、起きてくれ!」

 何度も呼び続けていると、ようやく目を、うすらと開けた。しかしその表情は、悪魔ではなく、ルナリスのものだった。――その目を見て驚いた。

 左目が色素を失い、真っ白になっていたのだ。

 これは……一体!

 悪魔が宿っている時、左目は燃えるように赤く光っていた。しかし今は、色を失っている。もしかして、ルナリスの黒い瞳を燃やすことで、赤く光っていたのか? もしそうだとするなら、次は右目を燃やされてしまうのだろうか。

「……レン、さん」

 薄い唇が微かに動き、俺を呼んだ。そちらを見ると、ルナリスが俺に微笑んだ。

「……よかった、助かったのですね。悪魔の回復魔法は、凄まじいですね」

 虚ろだった眼差しが、少しずつハッキリしたものになっていく。ルナリスは「ご心配おかけしました」と、俺の腕から離れた。

 麻の服は、今や血だらけになっていた。もちろん顔も血だらけだ。狼を前に、悠然と立つその姿は、俺の知っているルナリスとは全く違っていた。先ほどまでの悪魔の目つきとも、口調も違う。今は、完全にルナリスのはずなのに、どこか、大きなオーラを纏っているように見えた。



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