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第三話「血の契約・解放」2

 すると今度は、ルナリスの体が力なく宙に持ち上げられた。胸から持ち上げられ、空を仰ぐように。ルナリス自身意識があるのかないのか、両手両足はだらりと垂れており、目は虚ろだった。そして何やらぼそぼそと声を発している。



 ――汝、我が力を欲するならば

 その身、闇に捧げよ

 肉は我が器となり

 魂は我が炎に還る

 それでもなお、望むか

 我と共に、滅びを越えんことを――



 その声は、ルナリスの声に混じり、混沌の奥底から幾つもの低い声が重なり合っていた。それぞれが微妙にずれ、反響し、脳に直接響くようだった。

 すると今度は、ルナリスの声だけが、またしてもいくつも重なっているように言った。



 ――……ぞみます。



 その声は小さくて上手く聞こえなかった。が、すぐに空間は元に戻り、全ては色を取り戻した。

 ルナリスの小さな体は、その場にどさりと落ちた。

 ――動き出した時間に、眼前に迫る狼が巨大な爪を振りかざし、ルナリスへと突進してきた。その瞬間、彼女を中心に出現した黒いガラスのような半球のドームに、狼の巨躯は真っ二つに切断され、鮮血は飛び散り、“はらわた”はぼとぼとと落ちた。ドームの高さは民家ほどで、狼はまさにその防壁によって裁かれたのだった。

 ルナリスは体を重そうに、ゆっくりと立ち上がった。そしてこちらを見やる。その目は鋭く、明らかにルナリスのそれではなかった。苦しそうに、深く息をしている。

 ――その瞬間、俺は息を呑んだ。ルナリスの左目が、赤く光っていた。

 血を滲ませたような赤が、瞳の奥でゆらめいている。見慣れた顔なのに、まるで別の何かが覗いているようで、背筋が冷たくなった。

 ルナリスは掌をこちらに向ける。淡く黒い光がじわりと滲み出す。光は空気を震わせ、俺の周りに微かに渦を巻いた。

 ――俺、こいつにやられちまうのか?

 そう思ったが、たちまちにして全身の痛みや苦しかった胸が楽になっていく。それどころか、なんと脚が元に戻っていた。信じられない。こんなことが、本当に……。

「お、おい、お前、一体なんなんだ?」

 咄嗟に立ち上がりながら問うと、“そいつ”はルナリスの声で答えた。

「我が名はアザル・ヴェルク、深淵より封印されし者。契約の元、この力、この身を主とし、振るわんとす」

 こ、こいつもしかして、ルナリスに封印されていた悪魔なのか!? ルナリスの体が、乗っ取られているが、「この身の為に力を振るう」とか言っている。それなら、やってくれるかもしれない。

「お、おい、頼む! この城下町にいる狼、全部やれるか?」

 ルナリスの背中に言う。

 するとそいつは腕を組んだまま、肩越しにこちらを見た。唇の端がわずかに吊り上がり、挑発と余裕が同居する笑みを形づくっている。「さあ、どうかな」とは言ったが、首筋の魔法陣が炎を宿して艶やかに輝き、その眼差しは「試してみるか?」とでも言いたげに静かに光っていた。そして、ゆっくりと歩いていこうとしたので、「お、おい、俺も行くぞ!」と追いかけた時、悪魔はぴたりと立ち止まった。

 悪魔は俺を一瞥すると、鋭い目のままニヤリと口角を上げた。

「今度は、脚だけでは済まんかもな」

「――うっ」

 あの時の衝撃が脳裏に蘇る。しかしそれでも、俺はこいつの“力”を見たかった。いや、確認したかった、と言うべきか。あのおぞましい怪物を相手に、どれだけやってくれるのか。どうしても見たくなった。



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