第二話「朱(あか)の詠唱」5
その後、俺の希望で城を見に行くことになった。城は城下に入る前からすでに遠目に見えていたのだが、実物を間近で見たかった。別に興味があるとかではなかったが、せっかく来たのだから見ない手はない。
城の入口は、今度こそ大きな門があり、それはしっかりと閉ざされていた。この中に王様がいるのかと思うと、なんだか妙な感覚に陥る。今現在この城の中で玉座に座り、じっとしているのだろうか。いつか来るかもしれない勇者でも待っているのか? なんてな。
と、そう思った時。背後から声がした。
「失礼」
振り向くと、そこには背中に杖を携えた金髪の青年がいた。他にも三人、見るからに魔法使いと武闘家、それから斧を持った力自慢みたいな大男を連れていた。
その青年は俺を見た後ルナリスを認めたらしく、ニヤついた顔で声をかけてきた。
「よお、久しぶり。ここへ何の用だ? ここは城に仕える上品な人間しか立ち寄らない場所、お前みたいな出来損ないが来るような場所じゃあない。魔法も使えない魔法使いなんて、家の事を何もしない使用人と同じだぞ」
ルナリスはまたも、顔を真っ赤にして俯いている。こいつはどこの誰に会ってもこの調子なんだな。いじめられてるのか? こういうやつは一発バシッと言ってやった方が――。
そう思って一歩前へ出たが、ルナリスが俺の袖を引いた。
「おおっと、暴力か? まさかルナリス、こいつお前の用心棒か? ふぅん」
青年はそう言いながら、俺を見定めるようにぐるりと一周まわった。そして顔を近づけると、くわえていたたばこを取って、地面に叩きつけるように捨てた。
「ふん、くだらん。お前に俺はやれんよ、ククク」
捨てたたばこを踏みにじりながら、耳元でそう言った。すると仲間の三人も「クククク」とほくそ笑んでいた。
「お前には村がお似合いだ、さっさと帰れ」それだけ言って、開かれた門の中に入っていった。
どいつもこいつも年下のクセにムカつく野郎だ。むしゃくしゃして胸ポケットに手を突っ込んだ。煙を大きく吐く。すると、ルナリスが風に飛ばされそうな声で言った。
「あの、すいません。わたしといると、こんな事ばかりですね。……ご迷惑ですよね」
俯いて真っ赤な顔をしている。これはこいつの専売特許か? もうちょっと胸張れないもんかね。
「あいつも、ルナリスの友達なのか?」
コクリと小さく頭が動いた。
「はい、村の出身で、魔法学も剣術学も優秀でした。それで今では賢者としてお城に仕え、魔王探しの派遣隊に所属しています」
「魔王?」
初めて聞くワードに引っかかった。悪魔は封印されているとかで聞いていたが、魔王は初めてだった。
「はい、かつて存在していたとされる脅威です。二百余年ほど前から姿を消したと記録されています。そして魔物たちは本来おとなしい性格ですが、ここ二百余年ほどで気性が荒くなったとも記録されています。学校でも少し学びますが、魔物が人間を襲うのは、何らかの存在に操られているのではと考えられています。実際、魔物の性格が変化した時期と、魔王が姿を消した時期は一致しており、因果関係の研究が進められています。この学問は“邪獣考学”と呼ばれています」
「邪獣考学ねぇ。その世界にはその世界の学問があるんだな」
「魔王を倒すことが出来れば、或いは、封印することが出来れば、魔物たちもおとなしくなるのではないかと、ああやって派遣隊がいくつも城から出されています」
魔王と悪魔ではどちらが上なのだろう。と、そんな疑問が浮かんだ。
魔王と悪魔がボスとして登場するゲームはないような気がする。悪魔はどちらかというと、ザコキャラで出てきそうではある。そして魔王はボス。しかしこの世界では、神様と悪魔を封印していると言っていた。神が光の最高神だとすると、闇の最高神はやはり悪魔なのか? この世界では。
うーん、よく分からん。
宙を見上げて考えあぐねいていると、ルナリスが手を引いた。
「レンさん、ちょっとお付き合いいいですか」
そう言って、俺の返事も待たずにぐいぐいと先へ進んだ。
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