【03 プログラマー女子】
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・【03 プログラマー女子】
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廊下では世間話で、誰もいない教室に着いて、落ち着いたところで私が、
「あのプログラマー女子ってどういう人?」
と聞くと、急に陸が目を丸くして、一体どうしたんだろうと思っていると、でもすぐに陸は平常心のような顔に戻り、
「県内の高校生向けのプログラムコンテストで賞を獲った人だよ」
「うわっ、マジの人じゃん」
とつい声を出してしまうと、陸は頷きながら、
「そうそう。マジですごいんだよ、結構狭き門だったからね、あのコンテスト」
「どんな作品を投稿したのかな?」
と一応聞いてみると、陸はすらすらと答えてくれた。
「性格診断と占いを合体させたような、そういうソフトで、公式サイトでダウンロードできるよ」
陸も知っているということは同じクラスでは相当有名ってことなのだろうか。
性格診断とか占いとか、私はそんな好きじゃないけども、確かにその二つってかなり親和性高いよなぁ、とは思った。
陸は続ける。
「そこから細かいアドバイスも出てきて、テキストの量がすごかったよ。何か書いていることも的確だし」
「あっ、陸もそのソフトやってみたってこと?」
と素直に聞いてみると、陸は少し黙ってからこう言った。
「……うん、まあ俺も気になるからやってみたよ。実際やったら操作性というか、とにかく分かりやすくて本当に勉強になったよ」
陸がそこまで言うならやってみようかなとも思ったけども、相変わらず占いってそこまでじゃないんだよなぁ、とは思った。
でもプログラミングをお願いするなら、その子のソフトのことも知っていたほうがいいかとも思った。
「あと何かそのプログラマー女子で知っていることってない?」
「う~ん、仲良くないから分からないけども、多分だけどそのプログラマー女子って言い方、好きじゃないと思う」
「言い方ねぇ……」
と脳内でしっかり反芻してみた私。
でも確かに何か、〇〇女子って私も苦手だなぁ、と思った。
理系女子も登山女子(山ガール)も、女子はそういうことしないでしょ? が前提にあるような気がする。
「私も好きじゃないかも、そういう性別で括るヤツ」
それに陸も同調しながら、
「俺も料理男子とか、イクメンとか苦手かなぁ」
「そうそう、そういうのってさ、その性別はしないって前提があって、それの逆だから性別つけて強調している感じが何か嫌だよね、どこか差別的というか」
「俺も本当にそう思うし、やっぱりめぐはさ、言語能力が高いよね。すぐに説明できる」
キタキタキタぁ! これこれぇ! とつい脳内でハシャイでしまった。
だって陸は本当に何でも褒めてくれるから。
そんなところがマジで好きだよ、陸。
「あとそうそう、そのプログラマー女子……って言い方はもう良くないからさ、その子の名前を教えてくれない?」
「石田萌さんだよ」
石田萌さんか、と脳内で反芻した後は、陸とは他愛も無い会話を軽くしながら、また一緒に教室のほうへ戻ることにした。
そんな時だった。
廊下で大きな声が聞こえてきて、それもあの、石田萌さんの声で、
「その程度の企画でわたしを使おうとするなよ!」
と叫んでいたところを目撃してしまった。
そう言われたほうはペライチの紙を体ごとビクつかせながら、顔を引きつらせて立っていた。
石田萌さんは続ける。
「自分でやれよ! たいした関係値も無いのに使おうとしてくんな! ムシが良い!」
言われたほうはしょげつつも、
「同じクラスメイトじゃぁん……」
と言いつつ、肩を落としてどこかに去って行った。
その時に思った。
これ私じゃん、って。
たいした関係値も無いのに、企画をぶつけて作ってもらおうとしているのって、まんま私じゃん、未来の私じゃんって。
私はまだ企画こそ無いものの、まさかこんな未来がしっかりと見えてしまうなんて。
簡単に石田萌さんを使おうとしていた自分に自己嫌悪しながら、陸と別れたので、何か急に元気の無くなった人になってしまったけども、それは仕方ない。
いやでも、あぁ、いや、あーぁ、私って最低かも。