肝試し
『深夜、コメヌカ霊園に行くと、必ずお化けに遭遇する』
そんな噂がまことしなやかに囁かれるようになったのは、ケンジが小学六年生に進級した頃だ。
ケンジはお化けなんて信じない。お化けなんか信じるやつは、臆病なバカだと思っている。
だからコメヌカ霊園の噂話をしているやつらを見かけると、「怖がり〜。ダッセ〜」と声を上げてバカにしていた。
そんなケンジの言動に腹を立てたクラスメイトが、「だったらお前、深夜コメヌカ霊園に行ってみろよ!」と怒鳴った。
ケンジは怯えることもなく、「いーよ! 行ってやるよ! お化けなんかいないことを証明してやる」と啖呵を切った。
それを聞いていたクラスメイトのマサコが、「面白そうじゃん。私も参加する」と言い出した。
マサコは好奇心旺盛なのだ。なんでも首を突っ込みたがる。来ても来なくてもどちらでも良かったが、来たいと言うなら一緒に連れて行ってやってもいい。そう思ったケンジは、マサコの言葉にうなずいてやった。
と、言うわけで、ケンジとマサコは今日の深夜、コメヌカ霊園で肝試しをすることになったのだった。
深夜十二時。
親の目を盗み、そっと家を抜け出したケンジはコメヌカ霊園に向かっていた。
集合場所に着くと、マサコはすでに到着していたようで、静かにケンジを待っていた。
「じゃあ、行くかぁ」
ケンジの言葉にマサコはうなずき、ケンジが持ってきた小さな懐中電灯をたよりに、肝試しを開始する。
霊園はシーンと静まり返っていた。月明かりが墓をぼんやりと照らしている。恐怖は全く感じなかった。それよりも、今夜は穏やかな夜だなと思った。
こんな穏やかな夜は眠くなる。いつもだったらもう寝てる時間なのに。肝試しなんてバカみたいだ。やるなんて言わなきゃ良かった。などと若干後悔しながら霊園を歩く。
いつもおしゃべりなマサコは怖いのか、無言でケンジのあとを着いてきている。
特に会話もなく一通り霊園を歩き回った二人は、最初に集合した場所に戻ってきた。
なんだ、やっぱりお化けなんて出なかったじゃないか。明日、お化けを信じていたクラスメイトに「お化けなんか出なかったぞ。ざまーみろ」とバカにしてやろうなどと考えていたケンジは、マサコに向かって苦笑する。
「なんか、つまんなかったなー」
「……」
マサコは無言だ。なんだコイツ、ビビってるのか? そう言えばここに来てからコイツ、一言も喋ってないななどと不思議に思ったのだが、わざわざ喋らせるのも面倒だったので、マサコとはそこで別れた。
次の日。眠い目をこすりながら小学校に向かって歩いていると、後ろからポンと肩を叩かれた。振り返ると、そこに立っていたのはマサコだ。
マサコはパチンと両手を合わせると、ケンジに向かって頭を下げた。
「昨日は肝試し行けなくてごめんねー。こっそり家抜け出そうとしたら、親にバレちゃってこっぴどく叱られたぁ」
「え? お前、昨日ちゃんと来てただろ?」
マサコはキョトンと目を丸くする。
「え? 行ってないよ? なにそれ? 新しいギャグ?」
「……」
昨日マサコは、本当にコメヌカ霊園に来なかったのだろうか? だったら、一緒に霊園を回ったアイツは誰だったのだろう。
ケンジの背中に、すうっと冷たい汗が流れたのだった。