第6話「その手にふれたとき」
夜の静けさの中、焚き火の火が静かに揺れていた。
魔族との戦いから数時間。森の外れの小さなキャンプ地で、紗雪とリアンは肩を並べて座っていた。
「傷、大丈夫?」
紗雪がそっとリアンの腕に触れる。戦いの中で負ったかすり傷。もう血は止まっていたけれど、痛みはまだ残っているだろう。
「平気さ。君がそばにいてくれたからな。……正直、あの時、少し怖かったんだ」
リアンが静かに笑う。
その声に、紗雪の胸がきゅっと締めつけられる。
「わたしも、怖かった。……でも、それ以上に――あなたのこと、守りたかった」
言葉にした瞬間、火の粉がぱちりとはじける。
互いの手が、自然とそっと重なった。
「俺、ずっと考えてた。旅の目的も、神の使命も、もちろん大切だけど……それだけじゃない。君がそばにいることで、俺は自分を保ててる」
リアンの指が、紗雪の指を優しく包み込む。
手のひらから伝わる体温が、心の奥を温める。
「神を信じることと、君を想うことは、きっと矛盾しない。むしろ――君と出会ったから、俺は本当に“信じる”という意味を知ったんだ」
その言葉は、まるで祈りのようだった。
優しく、まっすぐで、心の奥に響いてくる。
紗雪は目を閉じて、小さく息を吐く。
自分の想いに、もう嘘はつけなかった。
「……リアン。私も、あなたの隣にいたい。あなたと一緒に、この世界を歩いていきたいって思うの。神さまがくれた奇跡みたいに、あなたと出会えたから……」
焚き火の炎が二人を照らす。
その温もりの中で、紗雪はそっとリアンの肩に頭を預けた。
夜は深まり、静寂が訪れる。
けれど、その夜の静けさは、ただの沈黙ではなかった。
信頼と祈り、そして確かに育ち始めた恋が、静かに寄り添っていた。
――手と手が触れたとき、二人の物語はまた新たな一歩を踏み出していた。