表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/10

第4話「やさしい奇跡」

森を抜けた先、灰色の霧に包まれた村があった。人々の顔には希望の色がなく、誰も目を合わせようとしない。


 「この村……まるで、生きているのに、死んでるみたい」


 紗雪のつぶやきに、リアンは険しい表情を浮かべた。


 「ここは〈霧の呪い〉にかかってる。かつてこの地にあった聖堂が崩れたとき、神の加護が失われたって聞いた」


 神を信じなくなった村。祈りを捨て、奇跡も失った場所。


 村人たちは、紗雪が癒しの力を持っていると知っても、信じようとしなかった。むしろ恐れて遠ざけ、彼女に冷たい視線を向けた。


 「……わたし、何もできないのかな」


 木の影で膝を抱えていた紗雪の隣に、リアンが静かに座る。


 「できるさ。たとえ誰にも信じてもらえなくても、君の祈りはちゃんと届く。俺が……君の祈りを信じてる」


 その言葉に、胸の奥がじんと熱くなった。


 「じゃあ、私……もう一度、祈ってみる」


 紗雪は村の中心に立ち、ひとり静かに目を閉じた。


 「主よ、この地に再び光を。

 忘れられた者たちの心に、あなたのやさしさを……」


 祈りの言葉が風に溶けた瞬間、空に裂け目が走ったように霧が晴れ、雲間から一筋の光が差し込んだ。


 その光が、村の枯れた井戸に落ち、そこから透明な水が湧き上がる。


 「……水が……!」


 「井戸が、甦った……」


 村人たちがざわめき始める。数年ぶりに流れた水は、まるで天から与えられた祝福のようだった。


 紗雪の祈りがもたらした、やさしい奇跡。


 信じる心は、誰かの中で静かに芽吹きはじめていた。


 「すごいよ、紗雪。君は……本当に、神さまに愛されてる」


 「違うよ。私、まだ弱くて、怖がってばかり。でも……リアンがそばにいてくれるから、祈れるの」


 見つめ合う瞳と瞳。

 ただ隣にいるだけで、心が強くなれる。

 それは、信仰にも似た絆。


 村に流れる小さな奇跡とともに、二人の想いも静かに深まっていく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ