第2話「癒しの祈り、剣の誓い」
「……ここが、廃都カリヴァンの礼拝堂跡だ」
リアンに連れられて辿り着いたのは、崩れかけた石造りの建物だった。かつてこの地で祈りが捧げられていたという古の礼拝堂。しかし今は、瓦礫と蔦に覆われて、神の気配など微塵も感じられない。
けれど、紗雪の胸の奥で、ふわりと小さな光が灯った。
「この場所……まだ、祈りを覚えてる」
彼女がそっと目を閉じ、胸に手を当てたその瞬間。静寂の中に、確かな“想い”が流れ込んでくる。遠い昔、誰かがここで涙を流し、誰かのために祈った。そのぬくもりだけが、かすかに残っていた。
「神さま……もし、まだこの場所が、あなたに覚えられているなら――」
紗雪が祈りを口にすると、枯れ果てたはずの祭壇に一輪の白い花が咲いた。柔らかな光が広がり、ひび割れた床に静かに命が宿る。
「これが……癒しの奇跡……」
リアンは驚きに目を見張る。その手に握られた剣も、わずかに輝きを帯びた。剣には、神に仕える誓いの証が刻まれていたのだ。
「紗雪……いや、“癒しの巫女”よ。俺はこの剣にかけて、君を守ると誓う」
まっすぐに告げられたその言葉に、紗雪の心が揺れる。
誰かに信じられること。信じようとしてくれること。
それは、ずっと自分が欲しかったものだった。
「ありがとう。私も……少しずつ、この世界を信じてみたい」
癒しと誓いは、ひとつの光となって、朽ちた礼拝堂を照らしていた。
それは、長い時を経て初めて蘇った“祈り”の灯火。
だがそのとき、礼拝堂の外で黒い影が揺らめいた。
静かに迫る魔族の気配。彼らは、“祈り”を忌む存在。
――癒しは、争いを呼ぶ。
少女と剣士の旅は、静かに、しかし確かにその始まりを告げていた。