第1話:祈りが聞こえる世界】
『神の名を抱いて、少女は異世界を癒す』
―A girl who heals the broken with a prayer―**
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【第1話:祈りが聞こえる世界】
目を覚ました瞬間、私は瓦礫の上に横たわっていた。
空は灰色に濁り、あたりは焼け焦げたようなにおい。ここは……どこ?
「……生きてる、の?」
周囲に人の気配はなく、ただ廃墟のような街が広がっていた。
でも、確かに聞こえる。誰かの“祈り”のようなものが、胸の奥に響いている。
それは、私が前の世界で最後に心に浮かべていた言葉だった。
――「神さま、どうか誰かを助けてください」
*
私は神学校に通っていた。
けれど、信仰に迷っていた。世の中は理不尽で、祈りは届かないと思っていた。
そんな私が、どうしてこの世界に?
「お前……もしかして“選ばれし癒し手”か?」
出会ったのは、黒髪で真面目そうな青年・リアン。
彼はこの世界に伝わる古い預言書を取り出し、そこに書かれた“白き癒し手”と私を重ねて見た。
「お前が来てから、この地に小さな花が咲いた。
……長く絶えていた“癒しの祈り”が、ついに戻ったのかもしれない」
癒しの祈り――。
私はこの世界で、“祈り”によって人々を癒す力を持っていた。
けれど、それを狙う魔族の影が忍び寄ってくる。
彼らは“真の祈り”を恐れていた。人の心が神へ向かうことを、拒絶していたから。
「お前がこの世界を変える。
俺は――お前を守る。そのために剣を抜く」
不器用でまっすぐなリアン。
最初は警戒していたけれど、彼といるうちに私は、信じることの意味を思い出していった。
信じること。愛すること。祈ること――。
それは、力ではなく「弱さと共にある強さ」だった。
*
この世界を巡りながら、私たちは祈りの力を失った聖堂を癒していく。
仲間が増え、過去と向き合い、恋を知り、そして――
神の存在がただの「概念」ではなく、「生きて働くもの」だと実感していく。
やがて訪れる、祈りを否定する“虚無”との対決。
そのとき私は、あの日の自分と向き合うことになる。
――「神さまなんて、いないと思ってた。
でも今は……この手の中に、確かに光を感じてる」