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第四話 その男、ギルドの戸を叩く


 クラークとの約束を果たしたその日の夜。

 早馬に引かせた一同の馬車は西方の大都市ギュントへ到着した。

 半日以上かかった旅路で体に痛みを覚えながらもそれぞれは目的地に向かうべく別れを惜しんでいた。

 サムはギュントのメインストリート、その中心にある噴水広場にて馬車を降りる。


 「それじゃあ、クラークまたな。ここまで、その……なんだ、色々とありがとうな」

 「よせよ、サム。根性の別れじゃあるめぇし」

 「……だな、世話になった。公都に行ったら必ず会いに行くよ」

 「ああ。期待せずに待ってるよ。じゃあな」


 そう言って、クラークは馬車の勝手口を閉め切った。

 次いで馬に鞭が打たれ、馬車はその場から走り去って行った。


 「さて、俺も行くか」


 そうして別れを惜しみ切れぬままサムは歩き始めた。


 この西方の大都市ギュントにある噴水広場の端には、メアンデル公国の中で最大規模を誇るギルド支部が存在する。

 ギルドとは、いわゆる遺跡(ルイン)に関わる人材不足を緩和するために作られた民間組織である。

 現存する文献によれば、遺跡(ルイン)はいつの時代も管理騎士教会(かんりきしきょうかい)によって管理、維持が成されて来た。

 しかし、管理騎士教会(かんりきしきょうかい)に入り、管理騎士(かんりきし)となるためにはその鉄則の特異さ故に、それ相応の身分が必要とされる。そして、遺跡(ルイン)を管理しなければならない都合上、身分と同様に武力も重要視されていた。

 だが、現代において身分の高い人間、いわば貴族は衰退の一途を辿っている。

 そのため、教会に入団を希望するものが減り、深刻な人材不足を引き起こしていた。

 それらを解消するべく作られた組織が「ギルド」である。

 身分を問わず、管理騎士(かんりきし)と同じ階級制度によって武力を分類するという仕組みを用い、新たに冒険者という職業をこの世にもたらした。

 ギルドが発足した当初は教会側も反発をしていた。が、身分を問わない冒険者という職は浮浪者を減らし、平民の生活を潤わせたために国はギルドの存在を公に認可した。

 これが、冒険者とギルドの生い立ちである。


 ギルドまでの道のりを歩き終えたサムは、遂にその扉を開き、中へと踏み入った。


 「……久しぶりだな。ここにくるのも」


 ギルドの内装は、その肩書に恥じぬものとなっている。

 石畳の床、扉から見た奥手には受付のカウンター、左側には広い小上がりがあり酒場が併設されている。右側には依頼の掲示板がずらりと並び、他の冒険者がその内容を吟味していた。


 「しかし、相変わらず騒がしいなぁ……ここは」


 夜もそこそこであるのに、冒険者達の乱痴気騒ぎは留まるところを知らないようだった。

 加えて、酒場からあぶれた連中が所構わずジョッキをぶら下げて飲みまわっているため、ギルド内には軽い雑踏が産まれていた。


 サムはその雑踏を掻い潜り、受付へと進んで行った。それも人影に隠れながら見つからぬように。


 「いっらしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」


 無事、受付前に辿り着いたサムは、年若い可憐な亜麻色髪の受付嬢にそう尋ねられた。


 「冒険者資格の再登録を頼みたい。……できる、かな?」


 こんな時間に、それも面倒な仕事を受付嬢に振る。その迷惑な客の自覚があったサムは、気まずそうに受付嬢へとお願いした。


 「ええ、構いませんよ。それに、あの冒険者たちが帰らないと私達も帰れませんので」


 受付嬢は可愛い顔をして嫌味を言う。加えて、ジト目で白い視線を後ろで飲んだくれている冒険者たちに送った。


 「ありがとう。恩に、きるよ」


 サムは受付嬢のその視線が自分に向けられない様、引き攣った笑みで愛想を振りまく。


 「では、再登録に当たって、お名前と年齢、それから失効した冒険者証のご提示をお願いします」


 「インサムニア・ペレイダイン、二十七歳…………これが、冒険者証です」

 「インサムニアさんは男性ですか?」

 「……はい」


 ひとしきり確認を終えた後、受付嬢は液晶型の魔道具を触って情報を引き出す作業へと移った。


 「確かに、冒険者としての登録履歴が残ってますね~。えーと?インサムニア・ペレイダイン、男性、二十七歳っと。……該当するのは一人だけですね~」


 そして、受付嬢は魔道具から手を放し、サムの強張った顔を見る。


 「登録時の顔よりやつれてて、左頬が腫れてますが、おおむね本人で間違いないみたいですね。はい、確認が取れました。」

 「……えっーと、終わり?」

 「はい、終わりです。過去はどうあれ、最底辺のミーレス級冒険者からのやり直しとなりますが、よろしいですよね。サ・ム・さ・ん?」


 威圧的に名前を呼ばれたサムだったが、心当たりはない様子だった。

 分かりやすく疑問を露わにする。


 「あの……どこかでお会いしましたっけ?」


 何食わぬ顔でしらばくれようとするサム。しかし、受付嬢は恐怖的なまでに笑みを崩さない。


 「えっと……受付嬢さーん?もしもーし、聞こえてる?」


 顔の前で手を振ったり、あるいは耳元で喋りかけたり、サムは手段を尽くした。しかし、受付嬢の表情は一瞬たりとも崩れはしなかった。


 「はい、これが新しい身分証です」

 「あ、はい……えわっ!」


 受付嬢はサムの疑問には答えず、問答無用で書き換えた身分証をサムへと手渡した。

 サムも流れには逆らえず、それを受け取る。

 が、受付嬢は身分証を受け取るために差し出したサムの腕を掴み、自身へと引き寄せた。

 そして、耳打ちする。


 「サム坊。後で私の部屋に来い」


 その言葉でサムの表情はリセットされる。

 一度あっけらかんとした表情を浮かべたが、すぐさま冷や汗が流れ出し、焦燥がサムの身体を支配した。


 「……カ、カレンさん?」

 「サム坊、後で覚えておけよ」


 受付嬢は未だに嫌味なほど笑顔であった。

 が、対するサムは震撼していた。

 その驚愕の真実に。


 「嘘だと言ってくれ……!」

 「毎度、ありがとうございました~!またのご利用お待ちしております!」


 サムは耐えきれず、魂が抜けた様な動きで一度ギルドを出た。

 そして、噴水広場のベンチに腰掛けて小一時間呆けた後。

 再びギルドへと戻って行ったのであった。

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