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第二話 暗雲立ち込める山の麓で


 同日、深夜。

 本格的に吹雪が激しくなり、地面には雪が積もり始めている。

 クラークとの邂逅(かいこう)を終えたサムは酒場への賠償を済ませ、下町の北側にあるガラ山脈の麓まで足を運んでいた。


 「……寒ぃな」


 上着という概念を知らないのか、サムは金色の鎧のみを身に着けて歩いている。吐いた白い息が出ては風に(さら)われ、降りしきる雪のせいで辺りの景色も変わり映えしてはいなかった。

 

 すると、ひと際存在感を放つ場所が一か所。

 ドーム状に広がる鈍い明かりが見えてくる。

 オレンジ色に見えるその明かりは熱を放っているのか、付近に舞っていた雪を溶かし、地面にも目に見える境界線を敷いていた。


 サムは迷うことなく、明かりが敷いている境界線の内側へと入って行く。

 するとその中には、突き立てられた一本の剣。地面には乱雑に捨て置かれた七本の剣が散らばっていた。


 「やっぱ、お前を持って行くべきだったな。ローグ」


 サムは突き立っていた禍々しい剣のグリップに手を掛ける。

 竜の肉体がそのまま反映されているような外見のその剣は、サムの呼びかけに答える様に光度を増した。


 ローグが放つ熱の高鳴りを感じて、掛けていた手を一度離す。

 今度は捨て置かれていた剣たちに近づいて、サムはその中からおもむろに白銀の剣身(けんしん)を持つ剣を持ち上げた。


 「なぁ、ヴェント。俺の顔、そんなにやつれて見えるかぁ?」


 言いながら、剣身に写った自身の顔を見るサム。

 クラークに言われた通りの不健康な顔をしている。加えて、骨が砕かれている左頬がいやに腫れていた。


 「うわぁ……我ながら派手にやられたな……」


 それを見つけて、治そうとするも、思いとどまる。


 「そうだな。こりゃあきっと俺への罰だ。何もしてこなかったんだ。当然だよな」

 「……っつーか、全てって何だよ。あんときに俺が見た光景が全てだっつーの」


 サムは、鈍い光が阻む曇りきった空を見上げ、目を閉じる。

 そして、鮮明に思い出す。


 遺跡(ルイン)の罠が動く瞬間、魔物に囲まれ応戦するステラの姿、敵を屠ったあと光に包まれて散り散りになるステラの影、誰もいない空虚な光景。

 一年を経た今でも、酒で浸し続けた頭でも、その記憶だけは消えずに残っていた。


 「だけど、クラークは俺を探しに来た。管理騎士(かんりきし)であるアイツが出張(でば)ってくるぐらいだ、きっと俺の見た光景だけが全てじゃねぇんだろうけどよ……」

 「……怖ぇな。明日、あの野郎が口にする言葉が怖ぇよ」


 サムは目を開けて、もう一度空を見る。


 「でも、クラークの野郎もパラディアだ。何かを知ってる。……だから俺は今、こんなにも躍起(やっき)になって何かを探し出そうとしてんのかもな」


 言いながら、サムは握りしめているヴェントに目を落とした。


 「……へへっ、賭けだな。悪天候の日はやっぱこれに限る。……ステラ、お前が好きだった奴だ。」


 乾いた笑いの後、サムは深く息を吸って。

 吐く。

 そして、握っていたヴェントを力の限りで握り直し、天へ掲げた。


 「よし、賭けよう。この一撃で吹雪を吹き飛ばせたら、俺は明日クラークに会いに行く!」


 ヴェントを下ろして構え、腰を捻る。

 全身のオドを身体の芯へ、集中。

 肩から肘、手首へと関節を伝わせていく。

 そして、手からヴェントへ、切先まで。

 全てが整い、サムは一歩を大股に踏み出して、大いに切り上げた。


 「グラン・ネイリヤ!!!」


 切り上げると同時に集中させていたオドを溢れんばかりに注ぎ込む。

 切先からオドが溢れ出し、剣はガタガタと音を立てて反発の意を唱えている。

 だが、サムはそれを(ぎょ)しきり、ヴェントの切先から溢れたオドは剣筋に乗って、まるで逆流する流れ星の様に天へと昇って行った。


 ……もし、叶うのなら。

 サムの胸中には切なる願いがあった。


 「叶うのなら。もう一度。ステラに、会いたいんだ……」

 「頼む!届けぇええええええええええ!!!」


 放った一撃はそれを叶えるかのように雲を穿つ。

 ぽっかりと天に空いた小さな穴。

 それから瞬間。

 瞬く間に、何かが炸裂したかの様に。

 立ち込めていた暗雲は、見渡す限り無くなっていた。


 「……やっ、た?……やったんだ。やったぞ、俺は!!!」


 ずっと見ていたはずだった。

 しかし、サムは信じられないと言った表情を浮かべては消し、成し遂げた顔で喜びを露わにした。

 そして、大の字に倒れ伏す。


 「流石に、オド切れだな……」

 

 息を切らして、誇らしそうな顔をするサム。


 「待ってろよ、クラーク。今度は俺がお前の髭面に一発喰らわしてやるからよ…………」


 そうして、サムは静かに眠りに落ちた。

 ささやかな寝息をたてて、泥沼の底へ意識を誘われたのだった。

 

 

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