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閃神の座

「……」


 唖然としながら、彰良は思う。この少女、苦手だ。

 容姿こそ可憐ではあったが、ここまで話ができない人間には会ったことがない。ツンデレと捉えられなくもないが、デレを引き出せるビジョンが見えなかった。アニメやマンガの主人公は、こんなのを相手にしていたのか。


 疲労感にくわえて、苛立ちさえ募りそうになる。

 だが、彰良はあくまで平静を保とうとした。その上で、話を穏便な方向に導こうとする。


「おい、お前も言ってたじゃん。いま、ここでは戦いが起きてるんだろ? だったら、言い争ってる場合じゃない。いがみ合うのは一旦──」


 彰良が握手を求めながら言うと、シャーロットは溜息交じりに返してきた。


「──戦いなら終わったわよ」


「え?」


 彰良は眉を上げながら、丘の麓を見渡す。

 そこは静まり返っていた。ドラゴンなどの魔獣は消え、数十人の戦士が姿を残すのみとなっている。シャーロットが言う通り、戦いは収束したようだ。


「アポトーシスは撤退したみたい。今度こそ尻尾を掴んでやるって思ってたのに……あーホントむかつくっ! いい加減、死ぬ気でぶつかってきなさいよ! それにっ──」


 突如、バチーンッ! という音が盛大に響く。

 シャーロットが、彰良が差し出していた手を思い切り叩いてきたのだ。


「痛って! おい、急に何すんだ……⁉」


「何すんだはこっちのセリフなんですけど? よーく平気な顔で握手なんて求めてこれたわね。アンタ、まさか私にしたことを忘れたの⁉」


「な、なんの話だ……?」


「は? 嘘でしょ? ついさっきの出来事なのに忘れたわけ? わ、わわ……私の胸揉んできたじゃない……!」


「あっ……」


 言われて、彰良はそのことを思い出す。

 シャーロットは腕を組みながら、目を細めた。


「へぇ~、理解したわ。変態は、この程度日常茶飯事だから気にも留めないってこと?」


「いや、誤解だって! ナイフが飛んでくるのが見えて、俺は守ろうと──」


「ふん、分かったわよ。一億歩譲って、それは信じてあげる」


「それはもはや譲ってないだろ」


「けど、すぐしらばっくれたのはどういうつもり⁉ いや~、本当に分からないんだって~とか言ってたわよね~?」


 シャーロットは言いながら、ぐいと距離を縮めてくる。


「ちょっ……」


 互いの鼻先が当たってしまいそうな距離に鼓動は早くなっていた。女の子とこんなにも近づいたことがなかった彰良はとっさに顔を背ける。

 そのとき、野太い声が唐突に響いた。


「おうおう、痴話喧嘩か?」


「っ……⁉」


 彰良は身を震わせ、振り向く。

 見知らぬ男が立っていた。その身体は筋骨隆々。その服は真っ黒で、ところどころ切り裂いたような傷を残していた。豪傑と呼ぶにふさわしい風格が滲み出ている。


「だ、団長っ!」


 シャーロットは、その男を知っている様子だった。彰良を突き飛ばし、その男の元へ駆け寄っていく。


「ちょっ、痴話喧嘩ってどういうこと⁉」


「あー、言い訳しなくてもいいぞ。恋愛に衝突はつきものだ。むしろ黙っててうまくいく恋愛の方が少ないからな。とことんぶつかって、とことん距離を縮めていくべきだ」


「そっ、そういうんじゃっ……!」


「でも、ボーイフレンドができたなら先に一言欲しかったなぁ。お父さん悲しいよ」

「団長は、私のパパじゃないでしょ⁉」


 シャーロットは癇癪を起こしたように地面を踏む。さっきまで彰良を振り回していたシャーロットが逆に振り回されていた。その光景はいささか見応えがある。

 男は、彰良を一瞥してきた。


「んで、シャル。この青年は?」


「性犯罪者」


「その紹介はあんまりじゃない?」


 彰良が閉口していると、なぜか男がまじまじと見つめてきた。


「あの、俺が何か……?」


「あー大丈夫だ。俺はキミが性犯罪者でも構わないぞ。男もいける口じゃなければ、俺には被害は及ばん。オールオッケーだ。あ、俺はオズガルドな」


「あの、前提として性犯罪者じゃないんで……九重彰良です」


 挨拶を返した彰良から黄金の剣へ、オズガルドは視線を移す。


「青年、この剣はキミのか?」


「いや、俺のじゃないです。ゴブリンに殺されかけた瞬間、なんか降ってきたみたいで」


「降ってきた? 誰かが召喚魔術で呼び寄せたとかでもないのか?」


「たぶん……それで剣に触った途端、感覚的に使い方が分かったんです。気が付いたらデカい閃光も撃てて」


「感覚的に……? すまん、すこし剣に触らせてもらえるか?」


「あ……」


 正直、剣を触れさせるのには抵抗があった。他の人間が同じように力を発揮できたら、彰良の特異性はなくなってしまうからだ。ただ拒否するのも不自然に感じ、最終的には許可する。


「えっと……はい、分かりました」


「ん」


 オズガルドは剣を鞘から抜き、振り回していった。

 だが、なにか特別なことが起こる気配子はない。


「ダメだな。俺には普通の剣だとしか思えねぇ」


 彰良は内心で胸を撫で下ろす。


「黄金の剣。そいつは直感的に使えて、ドデカい閃光も放ててってなると、こりゃ……」


 オズガルドが、神妙な顔でなにかを言いかけたときだった。

 丘の麓から登ってくる、数人の男女が目に入る。


「団長~、探したよ~。あ、シャルもここにいたんだ!」


 朗らかに声を上げたのは、ボブカットの茶髪を持つ少女だった。


「探すこちらの身にもなってください」


 静かに呟いたのは、ストレートロングの銀髪を持つ少女だ。


「オズガルドは蒸発癖があるからね~。私は特に驚かなかったわよ~」


「……なんでもいいよ、疲れたから帰って寝たい」


 柘榴色の髪を持つ女性、蒼色の髪を持つ青年も次々と口を開いた。

 おそらく仲間なのだろうが、オズガルドは彼らにまったく興味を示さない。


「青年、ちょいと身体を見せてくれないか?」


オズガルドは彰良へ触れようとしてきた。


「えっ、何を……?」


「あ、そういう心配は無用だぞ。俺だって好きなのは女だからな。違うんだよ。読み通りならどこかに……」


 オズガルドは彰良をくるくると回し、服に隠れた肌を確認していった。そして背中の服をまくり上げた瞬間、にっと微笑む。それから、身を仲間のほうへ向けた。


「よし、帰るぞおめーら。アキラだっけか? 今日はこの青年も連れてな」


「はぁ⁉」


 声を張ったのは、シャーロットだ。


「なんでこの変態まで拠点に連れて帰るわけ⁉ 部外者じゃない!」


「確かにそーだな。だが、この青年が戦争に終止符を打つ存在かもしれないって言ったらどうする?」


「えっ……?」


 シャーロットが目を丸くする。


「青年は……〈閃神せんじん〉の適格者だ」


 オズガルドの言葉に、彰良以外の全員が固まった。

 片側の口角だけを上げ、シャーロットは尋ねる。


「じょ、冗談でしょ? あれは伝説とかそっちの話じゃ……」


「いや、間違いねぇ。黄金の剣、馬鹿でかい閃光、それにこの紋章──」


 オズガルドにシャツの裾をまくられ、彰良の背中が露わになる。その背中には、剣や斧を重ね合わせたようなデザインの紋章が描かれていた。厨二病の男子なら誰しも好きになりそうなデザインだが、こんなものを描いた覚えはない。

 彰良が戸惑うなか、近づいてきたオズガルドは言う。


「ひとまず拠点に戻ろう。俺たち〈フリューゲル〉は青年を歓迎する」

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