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第76話 デートとバトルはよく似ている。

オレがアオイとのデートの行く先に選んだのは、市内にある最大の複合ショッピングモール『セレニアンモール』だ。


 このセレニアンモール、東京ドーム10個分といういまいちわかるようでわからないような広大な総面積もさることながら、内部には映画館やゲームセンター、屋上スペースを利用したスポーツ施設等々があり、アミューズメント施設としての充実っぷりを売りにしている。


 そのため、このまえ行ったゴンゾウクンランドとは違い、A級のデートスポットとして知られており、誰と行っても外れがないという素晴らしい場所でもある。


 そんなセレニアンモールならデート初心者とも言うべきオレとアオイでも十分以上に楽しめる。そう考えてこの場所を選んだのだが――、


「……うるさいですね。本当にここが娯楽施設なのですか?」


 セレニアンモール内、市内有数のゲームセンターを前にしてアオイはきょとんとした顔でオレにそう聞いてくる。

 何をする場所なのか、と聞かれてもゲームセンターなんだからゲームをする場所なのだが、そもそも、なぜゲームをするかがアオイには引っかかているようだ。

 

 ゲームセンター特有の電子音と悲鳴めいた歓声の混成楽章はオレにとっては懐かしい気持ちにさせてくれ心地いいものだが、アオイのようにゲーム文化を知らないものにしてみれば雑音でしかない。


 ……うーん、これはオレのミスだな。最初はもっとこうアオイにとってなじみのありそうな場所に連れてくるべきだったか。それこそ、このまえ行きそびれた水族館とか。


「すまん。別の場所にしよう。ここにはほかにも――」


「いえ、まずはここにしましょう」


「別に無理しなくてもいいんだぞ? 君が興味をもちそうなところは他にも――」


「でも、貴方はここが好きなのでしょう? であれば、ここでいいです」


「…………なんでわかったんだ?」


 アオイの言葉に思わず、自分の頬に手をやる。いつもみたいににやけたりはしてないはずなんだが……、


「その程度のこと、貴方の顔を見ればわかります。夫の目の輝きを見逃す私ではありませんよ?」


「……そうか」


 やばい。嬉しい。アオイ、オレのことそんなに見てくれてるのか。オレもアオイの表情については詳しいつもりだが、もしかしたら原作知識込みでも理解度で負けてるかもしれない。


「でも、今回はデートだ。ゲーセンは個人的に来るさ」


「いいえ、デートだからこそです。確かに今の私にこの施設のことは理解できませんが、理解できるようになりたのです。貴方がここを好きだというなら私もそれを共有したいのです」


 ……アオイの言葉には一切嘘がない。他の誰かが言えばあざとくもなるのだろうが、山縣アオイに限って言えばそれはありえない。いつでも、オレの心のど真ん中を射抜いてくる。ずるいぞ、もう本当、そんな風に言われたら、涙目になっちまう。


「その、変でしょうか?」


「……いや、ありがとう」


 そうして、ちょっと不安になってオレの顔を覗き込んでくるのもヤバい。かわいすぎる。もはや、かわいさで世界を救えるレベル。いや、八人目の魔人は可愛さから生じた魔人で、その正体はアオイなのではないだろうか……そんな妄想さえ抱くレベルだ。


「……ともかく、あれはゲームセンターだ。あそこに並んでる機械で遊ぶんだ」


 気を取り直して、改めてゲームセンターをアオイに紹介する。確かにオレが好きなものをアオイが楽しんでくれたら、それはすごく幸せなことだ。


「ここが例の……てっきり何かの訓練施設だと思っていたのですが……違うのですね」


 残念そうなアオイ。前にゲームセンターがどうとか言っていた時から思っていたが、やはり、勘違いしたままだったか……、


「そのゲームとやらは凜やリーズが遊んでいたようなものですか」


「まあ、そうだな。でも、ここの方がゲームの種類はたくさんあるし、ここにしかないのもあるぞ。あのUFOキャッチャー、景品を取るゲームとかだな」


「……なるほど」


 少し興味を持てたのかゲームセンターを見回すアオイ。すると、端っこの方に目を止めた。

 そこにあるのは大きな球体型の筐体だ。今プレイが終わったようでガタガタと揺れていた筐体の動きはゆっくりと止まった。


 ……あの筐体がオレが思っているようなものなら、アオイも楽しめるはずだ。というか、全人類好きだろ、たぶん。


「あれはなんです? 中で揺られて三半規管を鍛えるなにがしかだと見ましたが」


「まあ、半分くらいは正解だ。あれは……そうだな、やってみた方が早いか」


 アオイを連れて筐体に近づく。ワンプレイ五百円、こんなところもオレのいた世界と同じなのか。

 硬貨を投入すると、筐体の横側の窓が開く。内部には戦闘機のコックピットにも似た座席が置かれていた。


 前世だったら『BABEL』柄の電子カードを使ってたんだが、この世界では手に入らない。それに、フィギュアとかアクリルキーホルダーとか、そこらへんも…………、


 ……よそう、取り返せない過去を振り返るのは。今はBABELの世界にいるんだからグッズがなくても……平気だもん……!


「道孝? どうしたのです? 急に腹でも壊しましたか?」


「…………いや、思い出に別れを告げていただけだ」


「よくわかりませんが……」


「……気にしないでくれ。ほら、そこに座るんだ。オレはこっちのサイドシートに座るから、操縦桿を握ったら指示通りに」


「わ、わかりました」


 恐る恐るパイロットシートに腰かけるアオイ。彼女が左右の操縦桿を握ると、『ギュイーン』という独特の音と共に全天周スクリーンに映像が映し出された。


 現れたのは、高層ビル群の最中に立つ巨人の視界(・・・・・)。高さにして十八メートルから、二十メートルといったところか。うん、巨大人型兵器(・・・・・・)としてはオーソドックスなサイズだ。


 やはり、燃えるな……! オレはロボットもの(・・・・・・)も行けるタイプのオタクなのだ……!

 まあ、オレの世界にあったやつとは名前もデザインも微妙に違うが、なんだかんだかっこいいのでそれはよしとしよう。


「な、なななんです、これ!? わ、私たち浮いてます!? 何の術ですか!?」


「落ち着け。大丈夫、平気だ」


 可愛らしく動揺するアオイ。かわいいが、放置すると持ち前の怪力で筐体を破壊しかねないので、サイドシートから右手を重ねて、これが映像であることを伝えた。


「えと……機動戦闘神ガンダマイザーG? 絆のバトルフィールド(ツー)? 何かの呪文ですか、これ」


「このゲームのタイトルで、ガンダマイザーってのは、今オレ達が乗っている巨大ロボットのことで――」


 オレの説明という名のオタク語りをアオイは真面目な表情で聞いている。そんなアオイもかわいいが、さすがのオレも初代ガンダm……もとい、ガンダマイザーについて大まかな説明をしたところでやめにした。

 あんまり他の客を待たせるのも悪いしな。


「つまり、今の私は父親から秘密兵器を託された美少女兵士である、ということですね」


「……まあ、そういうことだな」


 美少女が云々は言った覚えがないが、アオイが美少女なのは紛れもない事実なので否定はしない。

 


「……なるほど、滾りますね、これは」


 両の拳を握り、魂を燃やしているアオイ。感動だ。

 もしやとは思てっいたが、やはりアオイは『燃え』を理解できたか……! 


 燃えとは即ち、かっこいいもの、もしくはシチュエーションに対して心が炎が燃えること、またその現象そのものを指す言葉だ(引用元、オレの脳内データベース)。

 この燃えを理解できるか、できないかは大事だ。特にオレにとっては、そうだ。


 なにせ、原作『BABEL』はエロゲ―であり、萌えゲーであり、燃えゲーでもある。

 というか、むしろ『BABEL』の七割は燃えで出来ているといっても過言ではない。ヒロイン達のかわいさはもちろんだが、そういうところにもオレはほれ込んでいる。


 しかし、嬉しいなぁ。こっちの世界に転生してからオタク語りをできる場も機会もほとんどなかったし、こうして好きな相手がオレの趣向を理解してくれるというのはすごく救われる気持ちだ。


「では、行きますよ! ガンダマイザー!」


 そうして、ノリノリのアオイの手によってゲームが始まる。オレもプレイしたい気持ちもあるが、今日はデートだ。せっかくだし、オレは副操縦士という設定でアオイのサポートをするとしよう。

 

 そうして、30分後、オレは知ることとなる。山縣アオイは何事につけて真面目に取り組む質であり、そのたぐいまれな才能は巨大ロボットの操作においてもいかんなく発揮されるということを。

 つまり、三半規管をぶん回す変態機動によってオレはグロッキーになったのであった……。

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