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伝奇ゲーム世界の必ず死ぬかませ犬に転生したオタクが生き延びる方法  作者: ビッグベアー
第七部 オタクと世界

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200/213

第200話 『転生者』たち

 終わりとは『死』であり、『死』とは終わりだ。

 生命活動の停止、自意識の消失、現世からの退場。人により、宗教、思想により定義は様々だが、共通しているのは『死』とは万物に訪れる『平等な終わり』であるという点であり、否定しようのない真実だ。


 死ののちには何も残らないし、なにも続かない。だからこそ、死は恐ろしく、尊く、誰にとっても特別であり続ける。


 であれば、そんな『終わり』の後、前世から記憶と人格を引き継いでしまった『転生者』とは――、


「君の推測は正しい。あの日、1999年のあの時、『ミコタアケコ』が差し出したのは、『終わり』だ。存在の結末、自意識の終端、あるべき休息、そういったものの『可能性』を彼女は差し出した」


 局長は冷淡な声でオレの推測を肯定する。目を覚ました巫女田朱子はまだ意識がはっきりとしていないようで虚ろな目で周囲を伺っていた。

 

 ……確かに辻褄はあう。

 あの時、『大悪魔』との契約で得たものが『あらゆる可能性を廃する』という結果ならば、その代償として『存在の終わり』という可能性が奪われるというのは十分にありうる。魔術的にも道理が通ってしまう。


 この契約が割に合ったものであるかどうかはオレには分からない。

 だが、考えるべきはそこじゃない。終わりを失うという現象が、一体どのような結果を生むのか。考えるべきはその一点だ。


「『終わり』を失うってことは、死ねないってことだ」


 考察を口に出す。そうしていないと結論の重たさを受け止められる自信がなかった。


 この世界において『死なない』と『死ねない』の間には大きな隔たりがある。

 前者はあくまで自発的な『語り部』の命のストックやオレの形代のような保険的な命の保障を指すのに対して、後者は呪いや怪異化、あるいは現象化による強制的な『不死』を指す。


 ……『終わり』なんてものを手放せば後者の状態に陥るのはまず間違いない。

 …………では、どう死ねないのか。重要なのはその点だ。そこがオレとミコタアケコの間にある決定的な差異だと直感が告げていた。


「――ああ、またこれ。本当、くだらない」


 響いた声は、オレの知る巫女田朱子のそれとは面影以外一致しないほどにかけ離れている。

 冷たく、諦めた声。巫女田朱子を象徴するような優しさや明るさの音色はそこにはない。


 表情もそうだ。

 瞳は憎悪に爛々と輝き、口元にあるのは嘲りの笑み。この世界の全てが自分にとっては敵なのだと目線だけで語っていた。


 肉体そのものはあの再現空間で見た15歳の巫女田朱子と同一のはずなのに、まるで別人だ。


「あんたらはいつもそう。原理がどうだの、世界がどうだの。それで何が変わるっていうの? ああ、そっか。変わんなくてもいいよね、ただの自慰行為なんだから。気持ち良ければOKってやつ? 壁の隅でしこしこやってれば?」


 言葉遣いにしても同じだ。

 巫女田朱子はこんな話し方はしないし、こんな風に相手を下に見るようなこともしない。


 ……やはり、別人だ。

 無論、原作とこの世界が別物であることは重々承知だ。アオイやリーズ、谷崎さんにしても原作と異なる経験を経たことで違う人格を形成している。


 だが、このミコタアケコはオレと同じ『転生者』。あらゆる意味で原作の巫女田朱子とは他人といえる。

 であれば問題は、その『なかみ』。オレはそれを知らねばならない。


「ずいぶんと不機嫌なことだ。この時間は君にとっても有意義だと思うがね」


「じゃあ、さっさと本題に入れば? 消したいんでしょ、あたしを。アンタにできるのはそれだけだもんね? 本当、機能システムが人間の形をしているなんて悪趣味にもほどがある」


「ふむ。随分と嫌われてしまったようだ。無理もないが」


 まいったものだ、と肩をすくめる局長。

 そういうところだろ、と思わなくもないが、魔人とは基本的にそういうものだ。ただの人間とは存在としての規模が違い過ぎる。人間が足元の蟻を気にしては歩かないように、魔人もまた個人の心情など斟酌しんしゃくしない。


 だが、『ミコタアケコ』の口ぶりも気になる。彼女の局長への物言い、いや、解釈は何かが違う。

 知りすぎているのとも、理解しているのともまた違う。彼女は識っている。局長という魔人を知識ではなく実体験として経験し、その上慣れてさえいる、そんな感じだ。


 ……いくらベテランの職員とはいえ魔人の実態を知る機会なんてそうあるものか……?

 転生者だとしてもそうだ。オレが言えた義理じゃないが、魔人との接触はそれそのものが単発で大当たり(SSR)を引き当てるようなレアイベント。いくら直接の指令を受けたことがあるとはいえ、慣れるなんてことあるのか……?


 実際、オレは未だに慣れていない。今でも遭遇するたびに内心では興奮やら恐怖やら歓びやらで頭の中がぐじゃぐじゃになる。比較的気安いはずの誘先生が相手でも緊張はする。何度見てもすごい美人だし。


 まあ、そういう意味ではこの世界で誰にあってもオレはそんな感じなんだが。ある意味では毎朝がサプライズだ。アオイとか24時間美人過ぎて見るたびに精神が浄化される。


 と、いかん。少し普段通り(オタク)に戻りすぎた。

 絶賛脳みそをいじられて人外化進行中なのにこういうところばかりはどうにも変えられないらしい。


「――気色悪い。こんな時でもそれ? だから、アンタは嫌いなのよ」


「っ!?」


 突然、身に覚えのある寒々しい視線に晒される。

 久しく遭遇していなかった『これだからオタクは』という刺すような目線。前世では教室やらでよく向けられていたが、今世になってからはこれが初めてだ。

 

 痛い。体ではなく心のどこかが。前世ではもう慣れるのを通り越してその程度では何も感じなくなっていたが、間がだいぶ開いたせいでダメージを受けた。

 相手は見た目だけとはいえあの巫女田朱子なわけだし――って、ちょっと待って。


「なんで、わかったんだ?」


「あん? バカなの? あんた。そんなの見ればわかるに決まってんじゃん。きもい顔してんのよ、オタク。鏡見たら?」


「……いや、違う。アンタはオレのことを知っている。そのはずだ」


 確信をもってそう答えるとミコタアケコは心底忌々しそうな顔をする。その表情がオレの確信をさらに深めた。

 これで単純に勘で言い当てたんじゃないと分かった。ただの勘なら指摘されてもこんな感情は出てこない。


 オレは、オタクだ。そのことを隠してもいないし、肯定的に捉えてもいる。

 だが、それを公言する相手は選んでいる。身内や仲間、親しくなった相手だけだ。オレは古のオタクでもある、誰彼構わず自己開示するほど陽なキャラはしていない。


 だから、オレがオタクであること。ましてや、オレが考え込んでいる時はオタク的思考に陥っているなんて、オレとの関係性がよほど深くなければ察せられない。

 それこそ、一瞬で見抜くのは仲間内でもゴマさんことリサにしかできない。


 ……残念ながら、オレと巫女田先生の間にそんな関係性はない。学園入学後も事務的なやり取りしかしていないし、常にオレを監視していたのだとしても間接的なやり取りだけでそこまでオレのことを把握するのは、難しいはずだ。


 ……となると、ミコタアケコは前世の知り合い?

 しかしそれはすぐさま直感が否定する。前世での友人は数えるほどだし、理解者となればさらに少数。ましてや、それほど深い関係の敵なんて前世にはいなかった。


 であれば、なんだ……? 

 なぜ、オレのことをこいつは知っている……?


「……どうでもいいでしょ、そんなの」


「いや、どうでもよくない。あと1ピースでパズルが完成するのに放置するようなことはしたくない」


「――っそういうところが!」


 ミコタアケコの視線が親の仇でも見るかのように険しくなる。彼女ににらまれているという事実そのものに怯みそうになるが、どうにか堪える。


 ここで退いてはオタクが廃る。あと少し、あと少しでミコタアケコの、フロイトの正体にもたどり着け――る?


「――『フロイト』だ。何でフロイトなんて名乗った? いや、分かるぞ。君は知ってるんじゃない、経験したんだ」


 『フロイト』の偽名は原作でも使われていたものだ。

 共通ルートの最終盤で解体局の命令に逆らって異界探索に赴く際、味方と連絡を取るために使ったのが『フロイト』という偽名だ。


 その偽名を使っていたことからオレとリサはフロイトの正体は『転生者』だと確信した。

 けれど、違った。転生者だということは正解していたが、どこから転生したのかをオレたちは間違えていた。


 ああくそ、とんだトンチだ。転生者は転生者でも種類が違ったんだ。


「君は、繰り返している。『逆行転生者(・・・・・)』。それが、ミコタアケコの正体だ」


 そう口にしながら、すべてが繋がる感覚に快感と恐怖を同時に味わう。

 もう、戻れない。あとはもう走り抜けるだけだ。


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