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第100話 今、ここにいる意味

 オレとゴマさんことゴールデンひまわりさん、現『朽上理沙』は再会の喜びもそこそこに鏡月館へと戻ることにした。

 

 積もる話はそれこそ山のようにあるが、今のオレ達には時間がない。さんざん脱線しておいてなんだが、ゴマさんとの再会は本来、この異界とはかかわりのない出来事だ。

 

 まずは、『鏡月館』。次に『アルマロス』。ゴマさんとオレ、そして、『八人目』についてはこの異界を解決してからでも十分に間に合う。


 ということで、オレたちは鏡月館へと繋がる地下通路を進んでいる。


「――でも、あのゲッちゃんが蘆屋道孝なんて想像もしてなかったよ。言われてみれば、納得はするけどさ。ほら、ゲッちゃん、道孝のことよくぼろくそに言ってたし」


 いつの間にか、ゴマさんはオレの知る彼女の口調になっている。声は完全に朽上理沙のものなのに、話し方がゴマさんになるだけでなんだか懐かしくてたまらない気持ちになる。


 それに、ちらりと振り返って見た彼女は朗らかな笑みを浮かべているし、それがなんだか普段とのギャップになっていて――いや、いかん! 落ち着けオレ! ゴマさんは同志だ! 邪な気持ちは抱いてはいけない! それになにより、今のゴマさんは朽上理沙でもあるのだ。オタクとしてこの一線は絶対に守る。


「ま、まあね。だって、ほら、登場するたびにろくな事しないし、すぐ死ぬし、性格最悪だし、基本的に間抜けだし、それに、すぐ死ぬし」


「そ、そこはね? でも、ほら、道孝にもいいところはあるよ。がんばがんば」


 背中を優しく叩いてくるゴマさん。

 きょ、距離感が近い……! 転生してから不本意とはいえ、美少女慣れしているが、これはまた別だ! 山三屋先輩も大概、距離感バグってるがあの人は根が明るいから、本来、陰よりのゴマさんとはまたジャンルが違う! 


「……例えば具体的には?」


 誤魔化すように、そう尋ねる。少なくともオレの知っている蘆屋道孝にはいいところは……ない。

 一応自分のことだからちょっと考えはしたが、やっぱり思いつかない。強いて言うなら、才能だけはそれなりあったことぐらいだ。それもこの世界ではそこら辺にいる天才の一人でしかないのだが。


「うーん、顔? 顔はいい、結構かっこいい。 こう、塩系ってやつ? でも、あれだよね、中身がゲッちゃんだと思うと、ちょっと、疲れた感じかな? でも、ダウナー系もまたよきものなのです」


「…………なるほど」


 そういや、ゴマさんは前からこんなことを言ってたけ? 蘆屋道孝は中身さえ入れ替えれば、それなりのポテンシャルがあるとかなんとか。さすがに他のキャラみたいにわざわざ主人公に据えてSSを書いたりするほどではなかったみたいだけど、少なくともオレよりは蘆屋道孝こいつのことを見込んでいた。


 ……なんだろう。ちょっとだけ嬉しい。まさかこんな気持ちになるとは、よかったな、蘆屋道孝。オレたちを評価してくれている人もいるぞ。


「そういえば、昔の口調に戻ってるね。やっぱり今でもそっちが素?」


「滅多に、というか、ママの前くらいでしか出さないけどねぇ。あ、でも、理沙タンのエミュしてる時も素のアタシ(・・・)でもあるよ? なんていうか、スイッチを切り替える的な感じかな? あたしの時は理沙タンで、アタシの時はゴールデンひまわりみたいな」


「ああ、鏡月館での役との切り替えみたいなもんか」


「そういうこと。それに引き換え、ゲッちゃんはあれだよね? 素だよね。めちゃくちゃ素」


「…………面目ない」


 ……正直なところ、『蘆屋道孝』のエミュレートをしようと思ったこと自体はある。

 でも、すぐにやめた。多分死ぬ、おそらく死ぬ、てか、絶対に死ぬ。


 なにせ、本来の蘆屋道孝は傲慢で、性格が悪くて、慢心しているバカだ。ただそのフリをするだけで済めばいいが、一歩間違うと、どこかで何かの機嫌を損ねて死亡フラグが連立して一瞬で死ぬ。無論、そうしていれば、現状のような原作粉砕骨折状態にはなっていないはずだが、彩芽のこともあってそのリスクをとれなかったし、取りたくなかった。


 ……原作ファンとしてはそれこそ立つ瀬のない話だ。特に、オレの眼から見ても完ぺきな朽上理沙をやっていたゴマさんの前では恥ずかしくて仕方がない。


「でも、それでよかったんだと思うよ? この世界、アタシたちが転生する前からだいぶいろんなことが変ってるし、なにより、しおりタンが言ってたよ。蘆屋君がいると、みんな楽しそうだし、まとまりが生まれてるって」


「谷崎さんがそんなことを……でも、買い被りだ。オレはただやれることをしただけで……」


 実際、うまくやれているところもあるにはあるが、それ以上に大きな問題が起こり続けている。その原因がオレにもあるのだとしたら、プラスマイナス0どころか、マイナスの方が大きい。


「あ、ゲっちゃんの悪い癖。いっつも『BABEL』のこと以外では自己評価低すぎ。スペック高いんだから、もうちょい自信持つ! それにしおりタンの意見にはアタシも賛成」


「ゴマさん、気を遣ってくれなくても――」


「だから、違うって。ゲっちゃんのことを知る前から思ってたんだけどさ。本当に、全部が君を中心にして皆がまとまってるようにアタシ(・・・)には見えてるよ。確かに原作にない事件も起きてるけどさ、悪いことばかりじゃない」


 そう言って立ち止まるゴマさん。振り返ったオレの瞳を覗き込んで、彼女は朽上さんらしくない、でも、ゴマさんらしい柔和な笑みを浮かべてこう続けた。


「ほら、原作のみんなって良くも悪くも個人主義っていうか、輪が個別ルートに突入しちゃうと出番が減っちゃったり、無くなったりする子がおおいじゃない? ところどころ、描写されたり、補足はされてるけど、やっぱりそこらへん寂しいよね。まあ、媒体としての適性とか、物語としての完成度を考えたらしかたがない面もあるんだけどね。でも、ここは現実だし、どんな『もしも(IF)』でもありえる」


「…………まあ、そうだな」


 何でもないように答えたけど、やばい、ちょっと泣きそう。

 自分ではどうしても自分の行いを肯定しきれない部分があったが、ほかならぬゴマさんにそんなことを言われたら、なんだか報われたような気になってしまう。


「少なくとも、今のみんなはアタシやゲっちゃんが話してた理想の状態にかなり近いと思う。だって本来の『甲』にほのかちゃんやリーズまで加わってるんだよ? マジでドリームチームじゃない? 最強じゃない? それが実現したのも、ゲっちゃんが頑張ったからだよ。だから、みんなゲっちゃんの周りに集まってるし、あくまで個別だった皆がチームとしてまとまってる。ということで、もうちょっと胸を張ってもいいんじゃないかな、ゲっちゃん」


 そうオレを励ましてから、最後に「まあ、ハーレム作っちゃってるのは考えものだけどね」と付け加えるゴマさん。可愛らしくウインクして、頬に指を添えたいたずらっぽい仕草に、救われているオレがいた。


 だから、昔を思い出して、こんなことも口を突いて出ていた。


「あれ、ゴマさんってハーレムNGだったけ? まえにそんなSS書いてたと思うけど……」


「あ、あれはその、輪キュンだからセーフなの! ゲっちゃん中心(・・・・・・・)のハーレムはその、あの解釈違い! り、理由はとくになし! ともかく嫌なの!」


 駄々をこねるようにそう主張するゴマさん。まあ、気持ちはおおいにわかる。蘆屋道孝オレのハーレムなんて傍から見ればヘイト系二次創作の極みみたいなもんだもんなぁ……、


「後、ゴマさんって呼び方、変えたい。そう呼ばれるのは好きだけど、今のあたしは朽上理沙でもあるわけだしね。もっと合ってる呼び名が欲しいかも」


「例えば?」


「そこゲっちゃんが考えてよ。そういうの考えるの、得意でしょ?」


「えー……」


 いや、まあ、キャラの略称とかはよく考えてはいたけども……今のゴマさんに相応しい名前か……えと、転生したゴマさんで転ゴマ?

 …………これは口に出したら即怒られそうなので胸に秘めておくとしよう。だったら――、


「――朽上さん」


 前方から近づいてくる気配に、思考を中断する。オレが『朽上さん』と呼んだことでゴマさんも一瞬で状況を理解し、戦闘態勢を取った。


 現在地は、鏡月館と枯れ井戸との中間地点だ。まだギリギリ、制限なしで異能を使えるが――、


「あ、あれ? 理沙ちゃんに、蘆屋君?」


「おや、行き違いにならずに済みましたわね。よかったですわ」


 暗がりから姿を現したのは、谷崎さんとリーズの2人だ。鏡月館で調査をしていた二人がどうしてここに……?


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